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2024年11月の柏レイソル戦の後半終了間際、得点がVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)で認められ、サポーターの元に駆け寄り雄たけびをあげるヴィッセル神戸の武藤嘉紀=三協フロンテア柏スタジアム、西岡臣撮影
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 「パパ、東京のチームに来られないの?」

 昨年9月ごろ、J1神戸のMF武藤嘉紀に電話口の子どもが言った。

 純真、無邪気な言葉だから、よけいに心が揺さぶられた。

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 2021年夏の神戸加入以降、東京にいる妻、1男2女の子どもと離れて暮らす。

 寂しさを押し殺し、中盤の右サイドで攻守に躍動した。インテンシティー(強度)が高い神戸のサッカーの象徴的存在だ。昨季はチーム最多の13ゴール、同2位の7アシストで2連覇に貢献した。

 12月、最優秀選手賞(MVP)を初受賞したスピーチで、単身赴任のつらさを吐露した。

 子どもの誰か1人に風邪や熱が出たら、うつってはいけないからと月に1度くらいしかない会う機会をキャンセルした。

 腰を痛めてはダメだからと、抱っこや肩車もほとんどしてあげられなかった。授業参観や幼稚園の行事などにも何ひとつ行けなかった。

 表彰式には家族も駆けつけた。子どもの肩を抱き、トロフィーを囲んで記念写真に納まった。

 転勤や単身赴任を命じられたら、退職を考えることも当たり前――。共働き、介護、健康問題……。働く場所は個々人の意思が尊重される時代に変わってきている。

 ただ、個人事業主であるプロサッカー選手の地位は不安定だ。オファーが途切れれば、20代半ばで肩書を失うことが大半の厳しい現実がある。

 「1戦1戦、100%で臨む」

 武藤が口癖のようにいう言葉だ。32歳。サッカーで稼げる時間は逓減していく。1日、1年。その価値は、60歳や65歳が定年の会社員より高いかもしれない。

 毎日が真剣勝負。その姿勢は海外で味わった挫折で芽生えた。

 経歴は「一見華やかな」と自…

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