連載コラム「紐育一灯」 ニューヨーク支局長・青山直篤
このコラムは…
戦後の国際秩序が崩れ、新たな世界史が動き出しています。我々はどこへ行くのか。手元の小さな明かりを頼りに、遠くを見据え、日本や世界の地平を探りたい――。そんな思いで、米国からの報告をお届けします。
摩天楼の谷底に人々がひしめき、大麻のにおいが混じる通りを行き交う。無数の顔に欲望と虚無、情熱と退廃が浮かぶ。ここでは誰もがニューヨーカーだが、誰もがストレンジャー(異邦人)である。
誰でもない自分を世界につなぎとめているのは何か。街を歩き考えるたび、思い起こされる作家がいた。アイザック・B・シンガー。20世紀初頭にポーランドに生まれ、1935年にニューヨークに移り住んでからも、母語のイディッシュ語で書き続け、78年にノーベル文学賞を受けた。
ゲルマン語派に属し、古いフ…