連載「100年をたどる旅」憲法編

連載「100年をたどる旅~未来のための近現代史」憲法編②

【前回の記事】総理大臣を飛び越えた「軍令」とは 明治憲法はこうして溶けていった

世界と日本の100年を振り返り、私たちの未来を考える連載「100年をたどる旅―未来のための近現代史」憲法編です。
前回(第1回)は、戦前の軍部が天皇の統帥権を拡大解釈して「暴走」した状況と、戦後に首相をつとめることになる岸信介が「改憲」の実現を模索したいきさつなどを描きました。

 岸信介は、保守合同で改憲を掲げて発足した自民党の総裁となり、首相として1957年6月に訪米した。

 前月、GHQ最高司令官のおいにあたるマッカーサー駐日大使との会談で改憲構想を伝えていた。外務省が2018年に公開した記録にある。

 「(衆院と参院の)選挙には安保条約を改正した上で臨みたい。そうすれば両院とも憲法改正に必要な3分の2の多数を獲得できるだろう。自分の年来の主張である憲法改正を具体的に日程に上らせることができる」

 外務省は米側との想定問答も作成していた。「改憲が先行すべきでは」への答えはこうだ。

 「日本国民は自衛隊の増強も米国に強制されていると考えている。いかに日本の安全を確保するかは国民自身の意思にかかることを条約で明らかにする必要がある。憲法の改正は、かくして高揚された日本国民の民族意識の基礎の上においてのみ可能となると信ずる」

戦後日本の防衛政策は、「戦力不保持」をうたった憲法の規定を踏まえつつ、解釈と運用によって必要最小限のタガをはめてきました。しかし近年、そのタガが急速に緩んでいます。集団的自衛権の行使を認め、防衛費も急増しています。そんな日本はいま、日米安保を「不平等」とする持論があるトランプ米大統領と向き合っています。

 米側の対応は国務省が後に公開した文書でわかる。マッカーサー大使は岸の改憲構想をダレスに書簡で伝えつつ、改憲より条約改定を優先するよう促した。

 「日本人は自衛隊を組織した際、改憲を待たず解釈で憲法を事実上修正した。この部隊は9条に違反しないとして受け入れられている。(それなら安保条約改定のため)なぜ正式な改憲を待つ必要があるのか?」

憲法改正「いま対処必要」 岸が見誤ったナショナリズム

 その上で、改定案として、日米双方が「憲法に従って」「日本領域」を守りつつ、「朝鮮戦争の時のように日本の兵站(へいたん)基地を使用する見通しがもてる条項」に言及した。のちに自身が岸らとまとめる、改定後の今の安保条約に近い。

 1957年6月。アイゼンハワー米大統領は日米首脳会談の前日、ダレス国務長官、マッカーサー駐日大使とホワイトハウスで協議した。

 ダレスは「日本は安保条約改…

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