【連載】フランスのリアル 麻薬危機編 第2回

火のついた乗用車が突っ込んで燃えたフランス南東部グルノーブルのミストラル地区にある公立図書館=2025年6月11日、マチュー・ボノム撮影

【連載】フランスのリアル 麻薬危機編

 フランスが麻薬に揺れています。密売は都市部から地方に広がり、市民が抗争の巻き添えになる事件も起きました。貧困や移民差別ともつながる麻薬犯罪は、政治を変えつつあります。麻薬の蔓延が生む危機は社会に何をもたらすのか。足を運んだ現場には、華やかなパリからは見えないもう一つのフランスがありました。

 車体の一部が溶けるほどの高熱で灰色になるまで燃えた乗用車は、子どもたちのための絵本も、クライミングや柔道などスポーツを楽しむための設備もすべて真っ黒に燃やしてしまった。

 アルプスの山々に囲まれ、壮大な景色が見渡せるフランス南東部の学術都市グルノーブル市。その中心部からトラムで約20分の場所にあるシャンタル・モデュイ図書館の入り口に、何者かが今年2月19日未明、火のついた車を突入させた。

 図書館のあるミストラル地区は低所得者が集まって暮らす場所とされる。市が昨年12月に新設した図書館は地区の未来を担う子どもたちや若者が集い、「共に生きること」を学ぶ希望の場所になるはずだった。

 地元の警察は図書館への放火について、事件の直前に展開した麻薬取り締まり作戦に対する密売人らの報復だとみている。放火の前日に2人の身柄を拘束していた。

パリで2025年2月6日、フランス政府の薬物撲滅キャンペーンについて発表するルタイヨ内相=ロイター

 密売人になった未成年同士の銃撃、巻き添えになって命を奪われる市民、密輸をめぐる公務員の汚職……。フランス各地で起きた麻薬関連の犯罪は連日のようにメディアで報じられ、治安に対する不安を増大させている。観光客でにぎわう華やかなパリの中心部を離れ、地方の事件現場を歩いてみると、フランスが抱える苦悩の縮図が見える。

 放火から4カ月近くが経った…

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