抗議デモで最初の犠牲者の一人となったアブ・サイードさんの銃撃場所。両手を広げたサイードさんの大きな肖像が掲げられていた=2024年11月22日、バングラデシュ・ラングプール、笠原真撮影

 バングラデシュ北西部の都市ラングプールから車で1時間ほど走ると、左右にのどかな田園が広がった。着いた先は、鶏や猫が歩き回る静かな村。その一角に、墓がひっそりとたたずんでいた。

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 墓にはこう書かれていた。「最も勇敢な殉教者 アブ・サイード」

 24歳の英語を学ぶ大学生だったアブ・サイードさん。イスラム教徒が大半を占める同国のハシナ政権崩壊を導いた「殉教者」として、また「英雄」として、多くの国民に記憶されている。

私が政変に感じていた「違和感」

 彼の遺族が取材に応じるといい、私は昨年11月、ラングプールを訪れた。「英雄」の素顔と、国民から「英雄視」されることへの率直な思いを尋ねたかった。デモの過程で1千人以上の命が失われたとされ、私はサイードさんを含めた犠牲が美化されているのではないかという違和感を感じていた。

 昨年7月、政府に抗議するデモに参加していたサイードさんは治安部隊と対面していた。無防備のまま両手を広げて抗議の意思を示したが、銃撃されて帰らぬ人となった。

抗議デモで最初の犠牲者の一人となったアブ・サイードさん。両手を広げ抗議したが、銃撃され死亡した=フェイスブック上の動画から

 最期の動画がSNSで拡散すると、国民の怒りが増し、デモが急拡大。今、銃撃現場は「殉教地」として市民が写真撮影の列を作る。国内各地にはサイードさんの壁画が描かれるようになった。

 9人きょうだいの8番目。「…

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