広島県三原市で活動する9人の地域おこし協力隊員の1人だ。ドミンゲズ・シャジムさん(30)はフランス南部の都市、アジャン出身。市内のイベントで手作りの菓子を販売したり、料理教室を開いたりして地元住民と交流を重ねている。
日本に興味を持ったのは、子どもの頃に見たテレビ番組がきっかけだ。サムライや江戸時代の文化についてのドキュメンタリーだった。「全てが新鮮で『こんな国があるのか』と驚きました」
幼い頃から両親と料理や菓子を作るのが好きだったため、「料理人になり、日本の田舎に自分の店を持ちたい」と考えた。フランスの大学で日本語を学びながら、日本人シェフのレストランで働いた。卒業後の2019年に大阪大に留学し、日本の歴史などを学んだ。
ニュース番組で地域おこし協力隊の存在を知り、全国で故郷に似た自然豊かな場所を探した。「その中でも一番親身に相談に乗ってくれたのが三原市だった」。隊員になって2年が経つ。
フランス南部の伝統的な菓子や家庭料理が店の売りだ。特にこだわりがあるのがカヌレという焼き菓子だ。4月中旬に出店したイベントでは50個以上を焼き、1時間半で売り切れてしまうほどの人気だった。
材料は牛乳や砂糖、小麦粉など一般的な洋菓子と同じだが、「焼き加減がとても難しい」。フランスでも家庭によってレシピが違うのだという。
SNSで「上手に焼く方法を教えてほしい」という問い合わせも来る。レシピは教えられないが、一つだけアドバイスをしている。「銅製の型を使うこと。アルミ製などに比べて10倍近い値段ですが、故郷の味だけは譲れない。外はカリッと、中はしっとり焼けます」
妻、笙子(そうこ)さん(30)、3歳の長男と3人で暮らす。「自然豊かな町の魅力を、お菓子や料理で伝えていきたい」。今は米粉や地元特産のハトムギ粉を使ったカヌレを開発中だ。
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2023年4月から三原市で地域おこし協力隊員として活動中。米や野菜を育てながら、昨年5月には大和町でテイクアウト専門店を開いたが、イベントへの出店や料理教室が忙しくなったため昨秋から休業している。もっと気軽に来られるような場所に店を移そうと、新しい出店場所を探している。