痛恨のエラー。試合終了のサイレンが響く中、グラウンドにうずくまる――。
敗れた瞬間の高校球児を描いた彫刻像を多くの人に見てもらおうと、大阪府枚方市の有志が活動している。
立ち上げた団体は「敗者の高校球児に光を当てる会」。甲子園歴史館に常設するブロンズ彫刻の制作費をクラウドファンディング(CF)で募っている。
敗者の涙が「語る」こと
泣き崩れる体を仲間に支えられる選手、勝負を決する捕逸で苦しみの表情を見せる捕手。敗れ去った瞬間の球児をテーマにした像は、京都市の彫刻家・宮瀬富之さん(83)が制作してきた。
地方大会や甲子園大会を取材し、「勝つ方がいいのだけど、負けてもいいんじゃないか」との思いで、2001年までに14体の樹脂製の原形をつくった。
北大阪商工会議所の副会頭、佐々木啓益さん(72)は21年、知人の紹介でプレハブ小屋にひっそりと置かれていた原像を見た時に「敗者の涙がこれほどまでに『語る』とは。衝撃を受けた」と話す。
甲子園で最後まで勝ち残るのは1校だけ。ほとんどの球児は悔し涙を流して成長していく。
佐々木さんは「彫刻を通して、多くの人に選手の思いを感じてほしい」と、仲間を募って22年に枚方市内で14体の原形を展示する企画展を開催。24年には、阪神甲子園球場(兵庫県西宮市)のそばにある甲子園歴史館でも、3体を展示した。
その後、歴史館と交渉を続け、今年4月に1体を常設することを認めてもらった。枚方市内の企業や個人と一緒に「光を当てる会」をつくり、後逸した捕手の原形を元にしたブロンズ像をつくって寄贈することにした。
宮瀬さんは「甲子園に自分がつくった像が置かれることになるとは、記念になってうれしい」と話す。
「光を当てる会」は今年の夏の甲子園大会が開幕した8月5日から、ブロンズ像の制作費を募るCFを始めた。
目標金額は700万円。専用サイト「CAMPFIRE(キャンプファイヤー)」(https://camp-fire.jp/projects/864477/view)で、9月20日まで募る。宮瀬さん直筆の礼状や甲子園歴史館の入館券などを寄付額に応じた返礼品としている。