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体を動かす東深沢中の体力向上部の部員たち(一部にぼかしを入れています)
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マルチスポーツを考える

 マルチスポーツを研究する筑波大の大山高教授によると、その効用は大きく三つあるという。

 ①様々な体の動きを学び、他競技に生かすことでパフォーマンスが上がる②飽きることなくスポーツを楽しめるため、燃え尽き症候群を回避できる③動作の偏りを避けられるため、けがのリスクを抑えられる。

 トップ選手が専門外のスポーツを経験したり、練習に採り入れたりすることで競技力を向上させるのは利点の一つだが、それより私は②、③に意味があると思う。

 マルチスポーツが主流の米国で活動するジャーナリストの谷口輝世子さんは「様々な指導者、仲間と接するため、一つの評価に縛られず、多様な価値観に触れられる」と教えてくれた。複数の居場所があることは、多感な時期を過ごす子どもたちの救いにもなり得る。

 ニュージーランドでは人生の幸福度を高めるために、育成年代にマルチスポーツを推奨するプロジェクトを国と競技団体がともに進めている。

 「スポーツを通して求めるのは一に健康、二に幸福、三につながり。金メダルはおまけにすぎない。運動能力の高低にかかわらず、すべての若者のための取り組みだ」と担当者は言い切る。

 スポーツ庁は2018年、運動部活動のガイドラインにマルチスポーツの考えを推奨する文言を盛り込んだ。だが、大きなうねりにはなっていない。指導者不足や費用負担への懸念もあるが、一つの競技に打ち込むことが美徳とされる考えが根強いからだろう。

 「スポーツ推薦を得ることなど、目先のゴールに集中しすぎていませんか」と大山教授は言う。

 一人が複数のスポーツに関わることが普通になれば、少子化のなか競技団体が子どもたちを奪い合う必要性は薄れる。何より多くの選択肢に触れ、好きなものを選びとったり、別の道を考えたりするなかで育まれる思考の柔軟性にこそ、マルチスポーツの本質があるはずだ。

マルチスポーツを考える

「早期専門化」が主流だった日本でも広がり始めているマルチスポーツ。その利点や課題はどこにあるのか。現場や識者を訪ねた。

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