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社会学者の朴沙羅さん

■朴沙羅さんの欧州季評

  • 朴沙羅さんの記者サロン「「フィンランドで考えた ナショナリズム・歴史・移民」視聴(8月22日~)はこちらから

 この春、フィンランドではいくつもの変化があった。4月半ばの地方選挙では、野党第1党・社民党が議席・支持率とも大きく伸ばした一方で、与党第2党であり、反移民受け入れを標榜(ひょうぼう)する真のフィンランド人党(フィン人党)が市町村議会で700議席を失い、支持率低下が続いている。この凋落(ちょうらく)は、現政権の緊縮政策への反感が、財務大臣にしてフィン人党党首であるリーッカ・プッラに象徴され、地方住民や労働者から支持を失ったからだという指摘もある。有権者の過半数は現政権の緊縮政策に反対しているが、選挙の後も福祉予算の削減は撤回されていない。

 この春、もう一つ大きく報じられたのが、6月19日に国会で可決された、対人地雷を禁止するオタワ条約からのフィンランドの脱退だった。フィンランドは2012年にオタワ条約を批准したが、22年のロシアのウクライナ侵略後、安全保障環境の変化を受け、条約からの脱退を求める市民運動が起こり、5万人以上の署名が集まった。23年以降、フィンランドとロシアとの国境にはフェンスが建設されているが、このフェンスの建設は、ロシアが難民申請者を意図的に送り込んでいるという政府の認識に基づいていた。

 こういった情勢から見えるのは、「フィンランド」なるものについての議論が、いま何を巡ってなされているかということだ。戦争への恐怖、福祉国家が維持できないかもしれないという不安、人口減少と労働力不足、排外主義の扇動といった点で、日本との類似点を見いだせるかもしれない。

 この連載の最初に、私はこう書いた。「私にできることは、おそらく一生付き合わなければならないこの不思議な現象――すなわち『なにじん』であること、人々が『なにじん』をすること――を通じて、私が住んでいるフィンランド(と、ときどき日本)の社会のごく一部を書くことだ」。そして、これまでこんなことを書いてきた。

 隣国ロシアへの恐怖は「ロシ…

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