Smiley face
長澤仁志さんはコロナの渦中、社員に「私たちの事業は、人々の命を守っていくことにもなる」とも語った。手前は貨客船・箱根丸(Ⅰ世)の模型=東京・丸の内の日本郵船本社、山本倫子撮影
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 日本郵船の長澤仁志会長(66)は常に前向きでいようと心がけている。コロナ禍で会社が不調に陥っても、その姿勢は変えなかった。社員も前に進もうとすれば、解決策は見えてくるはずだ――。この信念は、母が折に触れて話した言葉から生まれたという。

自動車専用船の半数「浮かんだまま」

 コロナが猛威を振るった2020年春、経済が止まった。工場は動かず、船で運ぶ貨物がない。港も動かず、船から荷揚げができない。日本郵船では一時、自動車専用船の半数ほどが「浮かんだまま」。業績は回復途上で体力に余裕はなかった。

 社長として5月に「緊急メッセージ」と銘打ち、社員に語りかけた。私たちは船で物を運び、世界中の人々の生活を守っている。会社は資金面などの手当てをした。大丈夫だ。「前を向いていこう」

 幼少期に母からよく聞いた言葉だった。「いつも前向きに笑顔で」。朝から転んでも「幸先が悪い」ではなく、「次は必ずいいことがある」とする思考回路が身につく。母は子育てにめどがつくと、歴史を学ぶサークル活動などの趣味を楽しんだ。

 自身は社会人になっても、意見を言い続けた。入社数年目に所属した自動車船部門。ライバルの海運会社がオーナーに返した船を使いたいと提案したが、上司は渋った。「他社が使った船は借りない」という慣習があったようだ。合理性を感じないと説得。その船は主力として活躍し、収益源のひとつに育った。

 管理職では「前を向く部下に、よりチャンスを」。40代半ば、LNG(液化天然ガス)船部門。ライバルに追いつくには? 徹底的に議論を重ね、具体策が次々と浮かぶ。船を管理する別会社をつくってサービス向上につなげた。「どうせ負けると落ち込めば、何も生まれません」

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