会見する日本製鉄の橋本英二会長=2025年1月7日午前9時18分、東京都千代田区、川村直子撮影

 日本製鉄が、米同業のUSスチール買収計画に禁止命令が出たのを不服として、バイデン米大統領を訴えた。しかし、日鉄が挑む訴訟は、いばらの道だ。

  • 会見でにじませた買収阻止の「構図」 日鉄が起こしたもう一つの訴訟

 国家安全保障にかかわる米大統領の最終判断は極めて重い。裁判所も、安保にかんする米政府の決定に対しては、追認する傾向が強い。

 米政府の横断組織で、外国からの直接投資を審査する対米外国投資委員会(CFIUS)の元高官スティーブン・ハイフェッツ氏は、「従来の考え方に基づけば、行政の決定を最終的に覆して、日鉄がUSスチールを買収できる可能性は高くはない」と指摘する。

 訴訟の展開も読みづらい。過去の事例がほとんどないからだ。

 大統領による禁止命令が出たのは1990年以降これで9件目。決定を不服として企業が大統領を訴えて勝った前例は1件のみ。

オバマ大統領時代に企業側が勝訴

 2012年、米オレゴン州の風力発電関連企業の買収を決めた中国系企業に対する禁止命令がそれだ。

 敷地が米海軍施設に近かったことからCFIUSはオバマ大統領(当時)に安保リスクがあると勧告。買収撤回が命じられた。

 訴訟は約2年を要し、14年に企業側が勝訴した。政府は決定の根拠を企業側に知らせず、反論機会を十分に与えなかったとされた。判決は、企業がCFIUSの懸念にあわせて提出書類を調整したり、前提となっている事実の反証をしたりする機会を与える必要性を指摘した。

 この前例は、日鉄にとっては明るい材料ではある。だがCFIUSは今回、日鉄に米国の鉄鋼生産が減る懸念などを伝達。日鉄は懸念払拭(ふっしょく)の提案を何度も重ねた。ハイフェッツ氏は「政府の懸念に対処する機会が与えられていたようにみえる場合、裁判所は『(審査の)やり直し』が賢明かどうか疑問に思う可能性がある」とみる。

 CFIUSに懸念の払拭提案…

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