旧ジャニーズ事務所(現SMILE―UP.(スマイルアップ))が、故ジャニー喜多川氏による性加害を認めてから、7日で2年が経った。被害の申告者は約1千人で、この1年はほぼ横ばい。うち約560人が補償を受けた。一方で、昨秋からは、補償をめぐって被害を訴える当事者とスマイル社との裁判も相次ぐ。当事者からは「被害者が救済に何を求めるか知ろうとしていない」との声が上がっている。
スマイル社のサイトによると8月29日時点で、被害を申告したのは1031人、うち補償済みは558人。昨年同時期と比べ、それぞれ35人、69人増えた。また、補償の対象外となった人は224人(同期比21人増)、被害を申告後に連絡が取れない人も233人(同11人減)いる。
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訴訟は昨秋から国内外で起こされ、スマイル社によると8月下旬現在、国内で7件が係争中だ。補償の対象外とされた人が、同社に賠償などを求める訴訟が2件、逆に同社が被害を訴える人を相手取り、賠償債務がないことの確認などを求める訴訟が5件ある。
さらに、この5件の被害当事者のうち元ジャニーズJr.の男性2人が、米西部ネバダ州で被害を受けたとして、スマイル社や関係者らに総額3億ドル(約445億円)の賠償を求める訴訟を同州の裁判所に起こしているが、スマイル社は、米国で裁判する根拠はないなどと主張して却下を求めている。
スマイル社は、補償の状況について、朝日新聞の取材に「多くの方々に迅速に補償を行うことができた。救済とは、補償のみならず、心のケア、再発防止なども含まれていると考える」と回答。相次ぐ裁判については、「同意に至っていない一部の方について、公的な第三者である裁判所に補償内容についての判断を仰ぐ目的で民事裁判・民事調停による対応となっているものと理解している」とした。
有識者「被害者が何を求めているのか聞き、ケアを」
旧ジャニーズ事務所をめぐる被害者救済のあり方について、性暴力やDV被害者支援に詳しい、フェリス女学院大の山本千晶准教授は、「加害者側の論理で進められ、お金で補償することに重きが置かれすぎている」と指摘する。
事務所への在籍が確認できない人だけでなく、在籍を証明できる人たちも含めて訴訟が相次いでいるのは、スマイル社と被害者側が考える「救済」に齟齬(そご)があることの表れだとみる。被害者救済委員会による補償の枠組みは、あくまでスマイル社側が用意したもので、これに応じたくない被害者がいる現状もふまえて、「被害者が何を求めているのかを聞き、ケアをしていくことが被害者の救済にとって最も重要だ」と話す。
また、長年にわたって被害を訴えることができなかった人が多くいることに触れ、「声を上げた被害者の心情を理解する努力をし、その声を無駄にしないという姿勢を見せるべきだ」。プライバシーに配慮しつつ、「どんな状況下で被害を受けたか、どうすれば被害を防げたかといった声を分析し、社会に公表して再発防止に役立てることも、被害者の救済につながる」とする。
山本千晶氏プロフィル
やまもと・ちあき フェリス女学院大准教授(ジェンダー法学)。セクシュアルハラスメントの相談員や、内閣府の男女共同参画局推進課暴力対策推進室などを経て現職。ジェンダーの視点から、セクシュアルハラスメントやDV、リプロダクティブ・ヘルス&ライツに関わる法と政策を中心に研究。