戦前・戦中の政治犯や思想犯らが収監されていた東京都中野区の旧中野刑務所(旧豊多摩刑務所)の正門が、そのまま約110メートル先に移動した。所有する区が5日までに作業を終え、2028年5月ごろの一般公開を目指す。明治・大正時代のれんが造りの名建築を残し、歴史と文化の発信や平和教育につなげたい考えだ。
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区によると、正門は高さ約9メートルで、1915年に完成。大正を代表する建築家・後藤慶二の設計で、後藤の唯一の現存作品とされる。刑務所にはかつて、無政府主義の社会運動家・大杉栄やプロレタリア作家・小林多喜二らが収監されていた。戦後に連合国軍総司令部(GHQ)の拘禁所として使われた後、83年に刑務所は廃止されたが、正門は現地に残された。
旧刑務所の跡地には今後、近くの区立小学校が移転してくる予定だ。区は2019年に現地での保存を決めたが、新たな小学校の敷地に門が残ることになり、保護者からは保存を認める声のほかに、「校庭が確保できない」などと撤去を求める意見もあったという。
区はこうした意見をふまえ、正門の移動を決定。区の担当者は「れんが造りの建物を壊さずに動かす試みは、全国的にも珍しい」と話す。
移動のための作業は7月下旬に始まり、予定通り終了。今後は一般公開に向けて敷地の整備を進める。酒井直人区長は7月の記者会見で「歴史的経緯もふまえ、平和教育にも活用するべきだと思う」と話した。