旧優生保護法について語る市野川容孝・東京大教授=東京都
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 旧優生保護法(旧法、1948~96年)を「違憲」とした最高裁判決は何を問いかけるのか。強制不妊手術の被害救済の活動に関わり、原告側証人として出廷したこともある東京大学の市野川容孝(やすたか)教授(60)=医療社会学=に聞いた。

 判決は、憲法13条の「公共の福祉」に照らして旧法を合憲としてきた国の主張を、全面的に否定した点で画期的だ。

 13条は「すべて国民は、個人として尊重される」としながらも、その個人の権利の尊重に、「公共の福祉に反しない限り」という条件を付している。12条にも「公共の福祉」という言葉がある。

 1949年10月、法務府(現・法務省)は、その前年にできた優生保護法によって不妊手術(優生手術)を強制できるか、その方法として麻酔薬を使ったり、だまして手術を受けさせたりしてよいか、という厚生省(現・厚生労働省)からの照会に、「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」ための強制不妊手術は「公益」に資するもので憲法に反しないと回答した。憲法12条と13条の「公共の福祉」という言葉を根拠にしたのである。この判断が1948年から1996年まであった旧優生保護法下で1万6千件を超える強制不妊手術に根拠を与えてきた。

 そして当時の政府の判断を、最高裁が同じ13条に依拠し覆した。

 また、不法行為から20年が過ぎると賠償請求権が消滅する「除斥期間」の適用を除外したことも評価できる。除斥期間を例外なく外すべきだからだ。強制不妊手術は、「貧血なので治療が必要」などとだまして行われたのが実態で、20年以上経っても被害に気づかない場合もある。また、旧法の「不良な子孫」という文言は、被害者とその家族に、今も被害の事実を口にできないような差別や偏見を生み出した。

 判決を受けて、まず動くべき…

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