映画「国宝」 ©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会

 歌舞伎の名家に引き取られた喜久雄と、御曹司の俊介。ふたりの成長を軸にした映画「国宝」が破格のヒットとなり、歌舞伎も注目されています。人々はこの伝統芸能をどう受け止めてきたのでしょうか。ライターの香月孝史さんが読み解きます。

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 映画「国宝」は多くの人にとって、歌舞伎という伝統芸能への憧憬(しょうけい)を託せる作品だと思います。映画が描いたのは虚構ですが、虚構を通じて、幻想ともいえる歌舞伎のイメージを見せ、現実の歌舞伎への興味を喚起している。歌舞伎を見に行く習慣のない大多数の人たちから支持され、歌舞伎に詳しい人や専門家の人々からも強い反応を呼び起こしています。

 人々が思い描く「歌舞伎」とはどんなものか。私は大学院でその社会的イメージを研究し、大正期から現代までの、専門誌をのぞく一般向け雑誌で歌舞伎がどう扱われてきたかを調べました。

1990年前後に起きた「ブーム」とブランド化

 1990年前後に大きな転機がありました。「歌舞伎ブーム」が起こり、歌舞伎を見る習慣のない人たち向けの入門記事が急激に増えたのです。影響力が特に大きかったのは「Hanako」など情報誌。91年にぴあが刊行したガイド本「歌舞伎ワンダーランド」は1年足らずで20万部を突破しました。

 ブームの中心は当時30代だ…

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