揚げたてのたけのこのひろうす=長沢美津子撮影

 京都のまちの料理屋さんの四季から、守られてきた味と料理人という仕事を記録する聞き書き「食の職人」は連載140回を数え、4年目を迎えます。小さな欄を今回は広げて、林亘さんが春を慈しむ「たけのこのひろうす」についてゆったりと語ります。

豆腐のおいしさを食べてほしい

 山に芽吹きや花の色がさしてきました。目に映る景色がやさしくなると、たけのこの季節が始まります。今年も京都のあちこちで、料理人が朝からはりきって、たけのこをゆでていることでしょう。

 端境のときを打ち破るように、大地を割って出てくる姿を含めて、わたしはたけのこにひかれます。若竹煮や桜鯛(さくらだい)との鍋など、あれこれ料理の話はしましたね。忘れてはいけないのが姫皮。たけのこの穂先を包む、「姫」というくらいでやわらかな部分です。

 自分から主張はしないものの、姫皮はたけのこのうまみを十分に備えています。豆腐との相性はよく、白あえにも向きますが、きょうはひろうすを作りましょう。

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 ひろうすとは、南蛮渡来の菓子の呼び名が転じた説があるそうで、漢字では飛竜頭、関東ではがんもどきですね。豆腐の生地を丸くして油で揚げたものです。

 どう作るかを考える時、わたしは豆腐のおいしさを食べてほしい。具の種類が多いことを、うるさく感じてしまいます。秋ならぎんなんと百合根、そして春は、姫皮ときくらげです。きくらげの食感と黒い色は強いので、散らす程度でバランスをとります。

 作り方に特別なことはありませんが、心に留めていただきたいことがあります。

 生地の豆腐とつくね芋は、混ざったように見えてもまだまだ。時間をかけてすりあわせないと、なめらかさや一体感がでません。丸くするとき、いかにつるんとした表面にできるかも違ってきます。

 そして、最初から高温の油で揚げないこと。表面をあばたにしては台無しです。ぬるい温度に入れ、時間をかけることで、縮緬(ちりめん)の布のような膜ができるのです。

 家ではまず揚げたてをしょうゆと薬味で楽しんでもいいですが、炊いたひろうすの滋味は格別なものがあります。表面に味がからむだけでなく、とはいえおでんほどには中までしみこまず、その加減を楽しんでください。

 野菜の皮には、皮の持ち味があります。調理場で大根をかつらむきにするときも、うどを酢のものにするときも、皮が出る。少しの量では使い道がなくても、貯めて一緒に炒めれば、おいしいきんぴらになります。ほかに、れんこんを花模様に切るのに落としたかけらも、集めればかき揚げにぴったりです。材料に対して自分の腕を生かす、あたりまえの仕事に思います。

 こんな、うるさいことをいってばかりですが、もうしばらくお話を続けます。どうぞ、おつきあいください。

たけのこのひろうす

たけのこのひろうす=長沢美津子撮影

 【材料 10個分】 木綿豆腐1丁(400g)、つくね芋20g、ゆでたたけのこの姫皮120g、きくらげ2、3枚、塩、淡口(うすくち)しょうゆ、砂糖、揚げ油

 銀あん(だし、塩、淡口しょうゆ、みりん、くず粉)

 【作り方】

①豆腐は前の晩から水切りする。木のまな板くらいの軽い重しで、押しすぎないようにする。

包丁の刃の重みを利用して姫皮を切る

②たけのこの姫皮を広げて、4…

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