(28日、第106回全国高校野球選手権京都大会決勝 京都外大西3―14京都国際)
五回裏の投球を終え、ベンチに戻った京都外大西のエース、田中遥音(はると)さん(3年)は交代を告げられた。序盤に失点し、五回にも3点を奪われた。
エースとして、最後までマウンドに立ちたかった。その気持ちをぐっとこらえ、「守備でチームに貢献する」と切り替えた。
六回裏2死二塁のピンチ。この回からセンターに入った田中さんの前に打球が飛んだ。すかさず捕って、本塁へノーバウンド送球。タッチアウトにした。「何度も練習してきたプレーでした」
これまでの5試合すべてで先発し、準決勝では119球を投げた。中1日で迎えた決勝。「全然大丈夫」。心は燃えていた。しかし、足が思うように動かない。序盤からボールが抜けた。「最大の準備はしてきた。でも、体が限界でした」
この春の甲子園では、前年優勝の山梨学院に初戦で敗れたが、九回を投げ抜いた。それ以来、注目される立場となった。周りの視線やプレッシャーから純粋に野球を楽しめなくなった。4月、監督に相談した。
「本気でやっている選手に迷惑がかかる」
2週間ほど練習を休み、選手のサポート役に回ることもあった。そんな田中さんを救ったのはチームメートだ。練習を途中でやめ、ミーティングを開いた。2年生の野手たちが思いを伝えた。
「田中さんがいないと勝てない。もう一度、野球をやりましょう」
この言葉が力となり、田中さんは再びグラウンドに立った。
学校からグラウンドにはバスで向かう。途中で降り、約3キロの山道を1人で毎日走った。その姿を見た選手たちも走りだし、今では投手陣の日課となった。春の府大会で背番号18番だった田中さんは、チームメートが憧れるエースへと成長した。
九回2死一塁。田中さんが打席に入った。5球目を振り抜いたが、打球はセカンドへ。一塁にヘッドスライディングしたが及ばず、ゲームセット。「はあ、負けてもうた」。今大会、投じたのは562球。それでも、春夏連続の甲子園は遠かった。
試合が終わり、ベンチ前に整列した。隣のチームメートの泣き顔を見ると涙があふれた。
「ごめんという気持ちとありがとうという気持ちの両方がこみ上げてきた。この3年間は夢のような時間でした」(木子慎太郎)