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昨年12月に仙台で行われた公開収録。大勢の番組ファンが集まった=TOKYO FM提供

 注目のラジオ番組やポッドキャストを紹介する「WAVE」のコーナー。今回は放送開始から20年目に入ったTOKYO FMのラジオドラマ「あ、安部礼司」をご紹介します。

 日曜の夕刻、ちょっぴり憂鬱(ゆううつ)な気分でラジオをかける。ラジオドラマ「あ、安部礼司」(TOKYO FM、日曜午後5時)。古本屋が並ぶ東京・神田神保町の中堅企業が舞台のサラリーマンドラマだ。

 主人公の安部礼司は、出世を極める某人気漫画の主人公とは対極の普通のサラリーマン。「並みの」を意味する英語の「アベレージ」そのままに、出世と無縁。優柔不断で人が良く苦労を押しつけられるものの、純粋で時に「信念の人」となる一面も。人知れず相手を気遣う人柄から信望が厚く、皆に愛されている。

 そんな安部礼司と職場の同僚や家族が織りなすコメディータッチのストーリーはどこか温かく、「そうだよね」とうなずいたり、励まされたり、勇気づけられたりするものばかりだ。

 たとえば、部長が部下を呼びとめてさりげなく励ます時の会話。

 「ヒマワリってさ、花が開くとずっと東を向くんだって。あんなにお日さまを追いかけていたのに。あ、でも、ヒマワリにはそれが幸せか」

 そして流れるMr.Childrenの「himawari」。ツボに刺さる選曲がまたいいのだ。

 「日曜夕方の憂鬱」には、意外なほど「安部礼司」が効く。

「パンチ力はないけれど…」

 普通のサラリーマンが荒波にもまれながらも前向きに生きる姿を描いた「あ、安部礼司」は今年で20年目に入った。

 音楽やトーク番組が全盛の時代にあって、ラジオドラマがこれだけ長く続くのは異例だ。堀内貴之総合プロデューサーがこう話す。

 「時代の先端を行くエッジの効いた番組はカッコよくて満足度は高いが、誰かに届く喜びを考えた時、ドラマならばできると思いました」

 日曜日のたそがれ時、憂鬱になっているサラリーマンの背中をポンと押してあげたい。優しくて家庭的で安心できる。そんな安部礼司のような人が部署に一人いるだけでラクに生きられる。

 「出世ドラマのようなパンチ力はないけれど、毎日、顔を合わせる仲間といい関係で生きることのほうが大事だと思うんです」

 番組は6月8日、放送千回を迎えた。「子どもの頃、親が運転する車の中で聞いていたリスナー」も、今は社会人。一緒に年を重ねてきたからこそうなずけるセリフが随所にある。

 平凡の中の幸せを地道に描き続けるドラマは、強い。

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