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 涼しい環境でよく育つビールの主原料ホップについて、キリンホールディングス(HD)が高温耐性を強めて育てることに成功した。苗を育てる過程で耐性を付ける手法で、既存品種の香味も保つことができる。ホップは地球の高温化など異常気象で収量が減り、品質低下が問題視されており、先例のない研究成果とみられる。

写真・図版
高温耐性を強めたホップ品種「ザーツ」(手前)のそばに立つキリンの研究者、今堀莉子さん。熱処理していない苗(奥)と比べ、葉が生い茂り、草丈も伸びている。ザーツは何百年も前からビールに使われる世界的な品種=2025年7月28日、岩手県奥州市、橋田正城撮影

 新たな栽培手法は特許を出願中で、6月にドイツで開かれた国際ホップ生産者団体(IHGC)の科学技術会議でも発表した。

 研究は3年前に着手した。植物は前もって軽度の温度ストレスにさらされると、致死に至らない程度の高温環境で生存できる「高温順化」という現象がみられる。その点に着目し、ホップ栽培に適用した。ビールによく使われるチェコ品種「ザーツ」と、ドイツ品種「ヘルスブルッカー」を扱った。

 ホップの苗を25度で熱処理して育てたところ、30度の高温環境でも生育不良が起きず、草丈が伸びた。水やりを10日止める「乾燥」した状態でも、同様に伸びたという。日中温度が約2度違う岩手県の2地点で屋外検証を続けてきたところ、温度が高い地点では、熱処理をしていない苗と比べて、生育不良がなく、草丈が伸び、葉も生い茂った。一方、ホップの香味に変化は見られなかった。

 高温化など異常気象はホップ生産への影響も大きい。IHGCによると、2024年の生産量は推計11万トンで5年前と比べて13%減った。50年までに欧州の主産地では収量が最大18%減る見通しを示す研究もある。

 キリンHDのR&D本部、今堀莉子さんは「高温でもホップの収量を維持できる可能性が高いことが分かった。来年度からは海外で同様の実証研究をはじめたい」と話す。キリンは22年に世界で初めてホップの苗を大量に増やす技術を開発した。今回の成果を組み合わせて、高温耐性を強めたホップ栽培の実用化を目指す。

■地球沸騰の時代、ホップ栽培…

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