初めて本を読み始める5~8歳ごろの子どものための、文字数が少なめで挿絵も多い童話は、「幼年童話」と呼ばれる。その新たな書き手を発掘しようと、昨年、「魔女の宅急便」などで知られる児童文学作家の角野栄子さん(90)らが発案した賞が創設された。背景には、このジャンルの先細りが進んでいるのではないかという強い危機感があるという。
昨年11月末。東京都内で開かれた「角野栄子あたらしい童話大賞」の贈呈式で、角野さんはこう話した。
「もっと顕彰しなければならない幼年童話を、大人の世界が軽んじている」
「本の潤い、一生ついて回る」
幼年童話は、絵本に親しんでいた子が、文字の多い本に挑むための「橋渡し」をしてくれると角野さんは考える。初めて自力で読む物語が面白ければ、きっと読書が好きになる。もっと長い作品も読めるようになり、その時期に読んだ本の潤いは一生ついて回るのでは、と思うからだ。
角野さんは、「魔女の宅急便」(1985年刊行)など小学校中学年以上向けの童話に加え、「おばけのアッチ」シリーズなど幼年童話も書き続けている。
「幼年童話の作家はいっぱいいたのよ。でも寺村輝夫さんや古田足日(たるひ)さん、森山京(みやこ)さんと次々亡くなっちゃって」
それだけではない。絵と物語の両方とも手がけたいと考える若い人は今、ほかの表現方法を選ぶようになっているのでは、とみる。
「才能がある若い人は、より自由にやれると考えて、絵本やマンガに流れてしまっているんじゃないかしら」
自由な発想は幼年童話のフィールドでも生かせる。作品を公募し、新たな作家を発掘したい――。幼年童話を刊行するポプラ社とその思いが一致し、賞が生まれた。
昨年2~5月末、商業出版さ…