労働者のセーフティーネットである最低賃金。労使の代表と公益代表の有識者によって決まる水準に近年、政治サイドが注文をつけるようになってきた。今年は赤沢亮正賃金向上担当相が高水準の引き上げを働きかけ、審議が長引いた。なぜ最低賃金は政治問題化するようになったのか。

取材に応じる赤沢亮正経済再生相=2025年7月24日午後6時53分、首相官邸、岩下毅撮影

 4日にまとまった今年の最低賃金の目安は、過去最大の上げ幅となり、63円(6.0%)引き上がることになった。「2020年代に全国平均1500円」との高い目標を掲げる石破政権だけに、赤沢氏が6.0%超の引き上げを求めた経緯が明らかになっている。

 そもそも最低賃金制度とは何か。賃金は本来、労使交渉で決まる。だが、企業と労働者の力関係が対等とは言えず、不況時に失業率が高まると賃金水準が低くなることによって労働者の生活が困窮する恐れから、セーフティーネットとして設けられた。

 ただ、ものの価格が下がり続けるデフレ下で、賃金が停滞してきた日本では、最低賃金は横ばいが続いた。それを「経済政策」として位置づけたのが2012年に発足した第2次安倍政権だ。毎年3%ほど引き上げて「時給1千円をめざす」との目標を15年に打ち出すと、それ以降はコロナ禍の20年をのぞき毎年3%を超える引き上げが続いた。

 最低賃金は、デフレ脱却のため、日本全体の賃金を底上げする起爆剤との役割も担うようになる。23年に全国平均1千円が実現すると、岸田文雄政権は「30年代半ばまでに全国加重平均1500円をめざす」との目標を掲げ、石破茂政権はそれを「2020年代中」と目標を前倒しした。

 政治問題化する背景には、最低賃金の影響を受ける労働者が少なくないという現実がある。

 第一生命経済研究所の星野卓…

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