札幌円山球場で29日、特別に始球式が設けられた。
マウンドに立ったのは札幌北斗の岡本啓一選手(3年)。部員不足で出場がかなわなかった。
1年前の今ごろ、岡本選手は朝3時半に家を出て、坂道を自転車で練習に向かっていた。先輩たちは昨夏、連合チームで地区代表決定戦まで進んだ。「自分たちもそこまでいけたらいいな」。そんな希望を抱いていた。
野球を始めたのは高校生になってからだ。友達とキャッチボールをした楽しさが忘れられなかった。
入部当時から部員は9人に満たなかった。平日の練習はキャッチボールやノックしかできないが、それでも楽しかった。土日になれば、連合を組む他校の先輩たちと実践的な練習ができる。自転車をこぎ続ける片道2時間半の道のりは苦にならなかった。
はじめは塁間すら届かなかった球も、動画で正しいボールの持ち方や腕の振り方を研究し、自主トレを重ねていたら、届くようになった。
最後の夏が迫る5月、遠藤啓史監督から、春の大会で連合を組んだ札幌あすかぜは、人数が集まり、単独出場すると聞かされた。「夏は一緒に野球できないのか」。悔しかった。校内の野球経験者などに声をかけて回ったが、単独出場できる人数には届かなかった。
引退試合となった札幌日大との合同紅白戦では、四球で出塁し、本塁に生還した。他校からも拍手がわき上がった。出場できないことが決まってからも、札幌あすかぜの練習に参加し続けた。最後の練習では胴上げされた。「不器用だけど言われたことは真面目にやろうとする。本当にみんなに愛されているんです」と遠藤監督。
始球式。岡本選手は監督や部長の先生、先輩、後輩などへの感謝を胸に投げた。「観客がすごくて。緊張してボールが浮いちゃいました」
笑顔で夏を終えた。