俳優の広末涼子容疑者が、病院で看護師を蹴るなどしてけがをさせた疑いで逮捕されました。テレビでは連日、ニュースやワイドショーで多くの時間を割いて逮捕後の様子や、過去のプライベートまでも詳しく伝えています。
こうした状況に、識者は「興味や好奇心に重きが置かれ、人権がないがしろにされている」と警鐘を鳴らしています。
有名俳優の逮捕を巡る報道をどう見たのか。冤罪事件に詳しい西愛礼弁護士と、メディア論を研究する音好宏上智大教授に聞きました。
「犯人視報道」への反省どこへ 西愛礼弁護士
――逮捕や送検、家宅捜索が、テレビなどで大きく取り上げられています。自動車事故の直後や病院での様子をCGの再現映像で流したり、何年も前の家族間の私的な事柄まで、過去の映像と共に報じたり。
こんなことまで流して大丈夫なのか、と報道を見て心配しています。例えば、事故後や逮捕されてからの様子について、「挙動がおかしい」などと報じ、違法薬物の影響を示唆するようなものまであります。名誉毀損(きそん)にもなりうるような内容です。
そもそも、特に捜査の初期段階では、何が真実かが分からない状況です。騒ぎ立てることで名誉毀損の状況が生まれるほか、世論が裁判官の予断を形成すれば、冤罪のリスクも高まってしまいます。
広末涼子容疑者逮捕 SNSでも情報拡散
――病院で看護師にけがを負わせたとして現行犯逮捕されていますが、それでも「冤罪」でしょうか?
国語辞典によれば、罪が無いのに疑われることも「冤罪」に含まれます。
例えば、「薬物使用のおそれがある」というような不確かな情報が報じられましたが、薬物検査の結果、薬物は検出されず自宅からも見つからなかったと後に報じられました。
もし仮に、自動車事故や病院での傷害で何かの罪が成立したとしても、素行不良といった予断を形成した結果、責任能力や量刑について誤判が生じるリスクも否定できません。
そして、メディア側だけではなく、SNS上であやふやな情報を元に発信・拡散している人たちも冤罪を生み出す当事者になってしまいます。何千人何万人が、気づかないうちに「誤判、冤罪事件」に加担していることになりかねません。
今回の事件で、世間の風潮が一方向に傾いていく様子を、怖いと感じました。その元になっているのが、容疑者の振るまいなど情報の一部を切り取ったり、臆測を交えて面白おかしく印象づけたりする報道だという点で、非常に問題は大きいと思います。予断がどんどん膨らんでいっているのが現状ではないでしょうか。
■「面白い」に重き 人権ない…