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社会心理学者で東京大准教授の稲増一憲さん

 27日投開票の衆院選で各党が論戦を繰り広げている。自民党の裏金問題に厳しい目が注がれる半面、政策面では大きな争点となるような論点が見えにくいとの声もある。有権者の投票行動を分析する社会心理学者で東京大准教授の稲増一憲さんは、有権者には対立軸となる「三つの軸」があるのに、政策への「変換」がうまくいっていない、とみる。「清き一票」をどう使ったらいいのか、話を聞いた。

 ――国政選挙の投票率は低い水準が続いています

 政党政治においては、政党や政治家が有権者に対し、投票行動をうながす政策パッケージを示して競い合います。多党制であれ二大政党制であれ、政党同士で多少似ている点はあっても一定の違いが分かる路線を示し、有権者に支持を呼びかけます。

 有権者の投票行動を社会心理学の観点から見ると、例えば「三つの軸」が見いだせますが、その軸を投票行動につなげる「変換」がうまくいっていないように見えます。有権者の間の対立軸はあるのに、政党が具体的な政策パッケージに変換できずにいるので投票意欲がわかない。低投票率の一因は政党側にも問題があります。

 ――「三つの軸」とは何ですか

 一つは、変化に抵抗を感じるか、それとも変化を許容するか。もう一つは、格差を受け入れるか、格差を解消すべきだと感じるか。最後に、男女、人種、国家などの集団間の上下関係を好ましいと感じるか否か。

 社会心理学の観点に立つと、この三つの軸が日本の人々の投票行動を左右しています。変化と格差をめぐる対立軸については「システム正当化理論」、上下関係をめぐる対立軸については「社会的支配理論」という社会心理学の研究にもとづいています。

野党を育てるのが難しい仕組み

 ――投票行動を左右するのは、憲法改正や増税に賛成か反対か、といった具体的な政策をめぐる問いではないということですか

 もちろん政策を見て投票する人も多い。でもその背景には、具体的な政策をどうするかという水準よりも深い、価値観や人生観に相当するような対立軸があるということです。

 米国とは違い、日本の有権者に「大きな政府」か「小さな政府」かと聞いても対立軸は見えてこないのですが、「変化を求めるか否か」「格差を許容するか否か」という問いを立てると、見えなかった対立軸が見えてきます。変化や格差をめぐり現状を許容する「システム正当化」の傾向は、高齢の男性ほど高いのですが、(高齢男性ほど社会的に有利な立場ではない)若い女性や低所得者にも現状を正当化し、投票する傾向があります。

 衆院選を前に、いま私たちが考えるべきことは何か。有権者として何を問われているのか。インタビューや対談を通して考えます。

 価値観の「軸」にもとづく投…

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