6月30日付朝日歌壇の入選歌40首をお届けします。選者は永田和宏さん、馬場あき子さん、佐佐木幸綱さん、高野公彦さんです。☆は共選作です。
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永田和宏選
八丁堀、小伝馬町と地下をゆく電車にゆかしき藤沢周平(堺市)丸野 幸子
☆家康も歩きしトンボロ江の島へ徒歩で渡れば潮の香に酔ふ(横浜市)松村千津子
祖父の引くリヤカーにわれはへばりつき渡りし故郷の木の流れ橋(綾部市)出口真理子
「メンソレはなんでも効くのよ」と言う祖母の笑顔がなんでも癒してくれた(東京都)岩本 朗
「病院のハシゴ」と言う人「診察券でトランプできる」と笑う人あり(神奈川県)神保 和子
砲弾を込めて背を向け耳塞ぐ幾度も兵士はそを繰り返す(岐阜県)日比野和美
砂丘越え鼻突く臭い流れ来るラッキョウの根切り黙々として(鳥取市)山本憲二郎
〈朝来帰(あさらぎ)〉とう郷のバス停降りたてば耳になじみし潮の騒めき(東大阪市)池中 健一
棲むものがありて澄めない水ありて水無月の月かすかに映す(金沢市)前川 久宜
携帯と固定でつき合い分ける日々固定電話に埃がたまる(浜松市)桜井 雅子
【評】江戸と現在が地続きであることを実感するかのような一、二首目。トンボロは陸繫砂州(りくけいさす)の意で、江の島を繫(つな)いでいる。三、四首目はゆったりと大きな信頼感で結ばれていた祖父母の思い出。神保さん、診察券でトランプには笑ってしまう。
馬場あき子選
ホオノキも驚きならむ版木に…