アリさんからコスズさんへの11通目

 ぼくたちの共著『「キノコ雲」の上と下の物語~孫たちの葛藤と軌跡』出版(7月7日)と、広島国際平和シンポジウム「核兵器廃絶への道~戦後80年、未来へつむぐ」(8月2日)への登壇に至る道のりを振り返ると、想像もつかなかった展開に驚かされます。

 ぼくたちは慎重にことを始めました。(原爆をめぐる)祖父たちの歴史という想像を絶する重荷で結ばれた2人が、「キノコ雲」の影の下で信頼が育つかどうかを確かめるために、静かに語り合ったのです。

 あの日のシンポジウムで、ぼくたちはただの友人でも協力者でもありませんでした。未完のまま続く国家間の対話を担う存在でした。被爆者や研究者、学生、そして記者を前に登壇したとき、ぼくが感じたのは、パフォーマンスなどではなく、証言を引き受ける行為の重みでした。

広島国際平和シンポジウム「核兵器廃絶への道~戦後80年、未来へつむぐ」のトークセッションで話すアリ・ビーザーさん=2025年8月2日午後、広島市中区、槌谷綾二撮影

 このシンポジウムは改めて思い出させてくれました。ぼくたちの手紙の目的は一つの答えを探すことではなく、困難な問いを恐れずに投げかけられる場をつくることなのだと。傷口がまだ開いているとき、和解はどのように見えるのか。爆弾を落とした側と受けた側、その孫同士は、互いの真実を譲らずに友情を築けるのか。核兵器が依然として存在する世界で、この歴史を受け継ぐぼくたちにはどんな責任があるのか。

 シンポジウムに来た人々の中には、謝罪と許しの瞬間という「終結」を期待していた人もいたでしょう。しかしご存じの通り、歴史はそんなに整然と片付くものではありません。

 コスズさんは「米国の謝罪な…

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