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30代のころの淳子さん。結婚後に鍼灸(しんきゅう)学校に通うなど東洋医学に関心を示し、中国に短期留学したこともあった=城アラキさん提供
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それぞれの最終楽章 最愛の妻の死(3)

漫画原作者 城アラキさん

 膵臓(すいぞう)がん末期で余命3カ月を宣告されたばかりの淳子さんは2010年2月上旬、僕と八ケ岳山麓(さんろく)の別荘にいた。淳子さんが東京都渋谷区の自宅ではなく、このログハウスで過ごしたいと言った。2人だけで山で暮らし、病状が悪化したら最後は淳子さんの故郷である静岡県浜松市へ――。僕らは漠然とそう考えていた。

 山から車で30分ほど離れた長野県茅野市の総合病院に転院した。手続きを終えると、2人は診察室に呼ばれた。医師が「抗がん剤を1クールだけでも試してみては?」と穏やかな口調で勧めてきた時、淳子さんが一瞬迷った顔で僕を見た。「一応やってみようか……」と返すと、「じゃあ……」と淳子さんもうなずいた。

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 淳子さんは、自分の悩みや苦しみを誰かに打ち明ける性格ではなかった。昔から何でも自分1人で決めて解決し、僕は子どものように従ってきた。末期がんを告知されて以降もいつも冷静だったが、淳子さんだって迷い、心配で不安でしょうがなかったはずだった。でも、僕はそれらを受け止め、大声で一緒に泣き、さまざまな思いを噴き出させられるほど頼りになる夫でなかった。

 この時、2人とも抗がん剤治…

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