第22回本屋大賞を「カフネ」(講談社)で受賞した阿部暁子さん(39)が9日、授賞式に出席した。会場に集まった書店員らに大きな拍手で祝福されながら登壇した阿部さん。受賞作に登場する小野寺せつなのように、つなぎを着てごついブーツをはいてこようかと思ったものの、担当編集や家族に止められた、と話し始めて会場を沸かせた。本屋大賞との縁や、書店員ら本を愛する人たちへの感謝を語ったスピーチ全文は以下の通り。
- 本屋大賞の阿部暁子さん、創作が「まるでカフェで牛丼」だった過去
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私は2004年の春に、入学したばかりの大学の、生協の小さな書籍のコーナーで「博士の愛した数式」という本を買いました。当時は奨学金と親からの仕送りで生活していたので、単行本を買うのは一大決心だったんですが、帯に書いてある「第1回本屋大賞」「この本は全国書店員が選んだ一番読んでほしい本です」という文章にひかれて、手に取って家に帰りました。それから時間を忘れて読みまして、明け方ぼろぼろ泣きながら本を閉じました。小川(洋子)先生が作り上げられた物語は、深い痛みが底に流れているんですが、数字の織りなす美しさと、それから本当に愛に満ちあふれた美しい物語でした。
当時はそんなに、きっとまだいらっしゃらなかった、本当に一握りの書店員さんが、その物語を届けるために、手作りでひとつひとつ風船を膨らませて、それを空に放すように物語を送り出しました。
風船を一ついただいた私は…