多様な価値観が併存する世を生き延びるため、人はどうふるまえばいいのか。村田沙耶香さんの新刊小説「世界99」(集英社)は、一見特異にみえる資質を持つ女性の生涯を社会の変容と共に描き出し、大きな問いを投げかける。3年余にわたる連載で壮大な思考実験を繰り広げた神話的な物語だ。
「常に人間に興味があるんです。でも、自分が気づいたり、知ったりしたことを書くよりも、箱みたいなものを作って、登場人物たちを置く。そこで何が起きるのか、顕微鏡をのぞくように眺めてみたかった」
主人公の如月(きさらぎ)空子(そらこ)は性格がなく無感情。幼稚園の頃から周りの人間の性質を「トレース」し、感情に「呼応」し、コミュニティーごとに人格を「分裂」させてきた。すべては「安全」かつ「楽ちん」に生きるために。
「私自身、幼稚園時代に周りに溶け込めなくて、号泣して授業を止めたりする問題児だったんですね。その頃から、変に目立たず、透明な存在として周囲に適応するにはどうすればいいかって考えていた気がします」
世界的ベストセラーとなった「コンビニ人間」の主人公が〈世界の正常な部品〉としてふるまっていたように、空子は人格を自由に切り替え、時には相手の感情を操りながら、差別や偏見が遍在する小さな街で少女時代を過ごしていく。
空子が大人になった第二章で…