素材メーカー東レの脱炭素戦略が幅を広げている。高級かばん向けに植物由来のナイロンを手がけ、漁業で使用済みの網をもう一度漁網にする。二酸化炭素の排出が少ない素材をいかに普及させていくか。カギを握るのは「物語と技術革新だ」と大矢光雄社長は話す。
――戦略的なプライシング(値決め)を強調しています。
「良いものを安く売ることこそが素晴らしい、という商習慣が日本には長くありました。しかし、これからは良いものはその価値に見合った値段で売っていく必要があります。それは脱炭素を進めるためにも欠かせません」
――具体的には。
「植物由来100%のナイロン繊維が『吉田カバン』の代表シリーズに採用されました。原料はトウモロコシとヒマシ油の原料になるヒマ。石油由来の原料を一切使わず、従来のナイロンと同等の強さと耐熱性を備えています。価格は高めですが、売れ行きは好調です。環境に優しい素材を使っているという『物語』を含めて買って頂いています」
――「物語」は産業向けでも通用しますか。
「石油由来ではありますが…