雲海を眼下に朝焼けの中を登る高校生たち=23日午前4時30分、標高3200メートル付近、斎藤健一郎撮影

 登山家の故・田部井淳子さんが女性として初めてエベレストに登頂してから今年で50年。その遺志を継ぐ「東北の高校生の富士登山」(田部井淳子基金主催、朝日新聞社など後援)が23日にあり、参加した福島と宮城の高校生68人全員が登頂した。

 午前1時、静岡県側の富士宮ルート6合目(約2490メートル)の山小屋をグループに分かれて出発。午前7時20分に富士宮口の山頂に至り、午前8時すぎ、標高3776メートルの最高地点、剣ケ峰に到着した。

 福島県立いわき総合高校2年の佐藤楓夏さん(16)は演劇部で登山経験がなかったが、自分の世界を広げたいと参加した。「がんばろう。絶対みんな登れるよ」と初対面のメンバーを励ましながら登った。「みんなで一緒に登頂できてうれしかったです。雲の上からの絶景も、一緒に登った仲間も最高でした」

 福島県立福島南高校1年の杉内茉央(まお)さん(15)は標高3500メートルを過ぎたあたりから高山病の症状が出て頭痛がひどくなり、仲間から遅れてしまった。

 付き添ったサポートスタッフから「深呼吸を」とアドバイスを受けて症状がやわらぎ、登山を続けた。

 仲間から10分遅れの午前7時半、富士宮口の山頂までゆっくり登って来ると仲間が待っていて、駆け寄ってきた。「よくがんばったね」「ありがとう」。抱き合った。

 杉内さんはタオルで涙をぬぐった。「本当に苦しくて、もう登れないかと思いました。頂上でみんな待っていてくれて本当にうれしくて……」

 下山は時折ヒョウがふり、雷も鳴る荒れた天候になったが、登山ガイドや国際山岳医、エベレスト登頂経験のあるタレントのなすびさんらスタッフ28人のサポートもあり、午後2時過ぎに全員が6合目の山小屋に戻った。

 宮城県立仙台第二高2年の佐藤望吾(のあ)さん(16)は笑顔で振り返った。「高山病に苦しめられましたが日本一の山に登ることができて良かったです。雲海に星空、これまでに経験したことのない登山でした」

 プロジェクトは、田部井さんが東日本大震災の翌年に「東北の高校生に日本一の頂に立つことで自信をつけ、震災復興の力になってほしい」と始めた。

 2016年に田部井さんが亡くなった後も、「1千人の高校生を富士山へ」という田部井さんの遺志を長男の進也さん(46)が引き継ぎ、全国からの寄付を集めて毎年続けている。

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