2011年の東京電力福島第一原発事故をめぐり、東電の株主42人が旧経営陣らに対し、「津波対策を怠り会社に損害を与えた」として23兆円の賠償を求めた訴訟の控訴審判決が6日、東京高裁であった。木納敏和裁判長は、旧経営陣に13兆3210億円の賠償を命じた一審判決を取り消し、株主側の請求を棄却する判決を言い渡した。
22年の一審・東京地裁判決は、旧経営陣は巨大津波を予見でき、対策を指示すれば事故は防げた可能性があったと判断していた。しかし高裁は、巨大津波の襲来に「切迫感や現実感はなかった」として、そもそも津波を予見できなかったと判断。一転して旧経営陣の賠償責任を認めなかった。
提訴された旧経営陣は5人で、勝俣恒久元会長(24年に死去)、清水正孝元社長、武黒一郎元副社長、武藤栄元副社長、小森明生元常務。死去した勝俣氏の訴訟は相続人が承継した。
訴訟の大きな争点は、旧経営陣が巨大津波の発生を予見できたか(予見可能性)と、津波対策を指示していれば事故を回避できたか(結果回避可能性)だった。
国は02年、福島県沖でも大津波を伴う巨大地震が起きる可能性があるとの地震予測「長期評価」を公表していた。一審判決は、この長期評価は「日本のトップレベルの研究者によって作られたものだ」などとして、科学的な信頼性があったと指摘。長期評価の見解を踏まえれば、旧経営陣は巨大津波を予見できたと認定した。
その上で、原子炉建屋などの浸水対策として水密化の工事を指示すれば事故を防げた可能性があったと判断。実際に発生した廃炉や除染費用、避難者への賠償額などから「旧経営陣が東電に13兆円超の損害を与えた」と算定し、賠償を命じていた。
控訴審で、旧経営陣側は一審に続いて「長期評価には地震学者らの批判があるなど、信頼性は乏しかった」などと主張。株主側は、賠償命令の維持を求めていた。
判決言い渡し後、原告団の木村結・事務局長は東京高裁前で「不当判決」と書かれた紙を掲げ、厳しい表情をみせた。「信じられないし、許せない。すばらしい判決を福島の方々に届けることができなかった」と声を詰まらせた。弁護団の河合弘之弁護士は「非常に不当で論理的に矛盾した判決。原発事故の再発を許すもので、最高裁でこの判決の欠陥を追及する」と語った。