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松岡美里のキミとキラッキランラン

 アニメ「キミとアイドルプリキュア♪」(ABCテレビ・テレビ朝日系、日曜朝8時30分)のキャストが月に1度、思いを語る連載「キミとキラッキランラン」。8月は、キュアアイドルに変身する咲良うたを演じる松岡美里さんの登場です。放送開始から約7カ月、うたちゃんの色々な顔が見えてきたそうです。

 9月12日には「映画キミとアイドルプリキュア♪お待たせ!キミに届けるキラッキライブ!」の公開も控えています。おうちから一歩外に出て、プリキュアに会う経験とは、どんなものでしょう。松岡さんの思い出を聞きました。

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周りのキラキラ、浴びながら

 収録が始まった頃、うたちゃんは常に天真爛漫(らんまん)に見えていました。

 「どうしたらいいんだろう」と悩むことはあっても、すぐに「こうしよう!」「いったん寝よう!」と、すぐ次の行動に移ることができる。彼女の中に、すべてのキラッキランランが詰まっているのかな、と思っていました。

 けれども、落ち込むこともあるし、悲しむこともあるんですよね。

 第28話「わんわん!きゅーちゃんと一緒!」(8月17日放送)であったように、おばあちゃんが亡くなるという避けようのない悲しいことに直面したら、やっぱりすぐに立ち直れるような子ではない。

 等身大の少女らしさというか、私たちが普段感じることを、うたちゃんも感じていると思いました。

 そんなとき、うたちゃんは周りの人に助けてもらえる子でもありますよね。立ち上がるきっかけを、幼い頃からずっともらってきた。周りの人たちのキラキラを浴びながら育ったから、うたちゃんもキラキラになったのかな。

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咲良家の飼い犬「きゅーたろう」。うたの祖母が亡くなったことを機に、祖父の家からやってきた©ABC-A・東映アニメーション

 うたちゃんのパパとママの姿も忘れられません。

 たとえば、第21話「とびっきり!キセキのユニゾン!」(6月29日放送)で、ママはプリルンが記憶を失って落ち込むうたちゃんを、どうしたのだろうと見守っていました。

 パパはパパで、牛乳をこぼしたうたちゃんに、「子どもなんて失敗するのが仕事みたいなものだ」「これから失敗しなければ全然OK」とカラッと言ってくれた。

 いいことを言おうとするわけでもなく、本気で思ったことを言ったら、その人が元気になってくれる。その遺伝子はうたちゃんにも受け継がれているように感じます。

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人生で初めて演技しながら……

 そのエピソードで、プリトイカメラに収められていたプリルンの写真を見て、うたちゃんが泣きじゃくる場面がありました。

 あの場面の演技は「気づいたらああなった」という感覚でした。

 台本を見たとき、うたちゃんがいとおしく感じました。プリルンが思い出をなくしてからも、明るく気丈に振る舞っていたときもあったのかもしれないと思って。

 そうしたら、私自身が悲しくなってしまって。プリルンがうたちゃんに明るく「キミ、誰プリ?」というのも、悲しくて。

 本当にプリルンのことが大切で、今まで過ごしてきた時間を大事にしてきたんだと思ったら、人生で初めて演技しながら泣いたんです。

 第21話のクライマックスは、うたとプリルンが「笑顔のユニゾン♪」を一緒に歌う場面でしたね。

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第21話で、うた(左)とプリルンが「笑顔のユニゾン♪」を声をあわせて歌う場面©ABC-A・東映アニメーション

 基本的に、歌を歌う場面は、せりふとは別に収録します。ですがあのシーンは、せりふの収録のテストから歌ってみました。その方が雰囲気が分かるかな、と思いまして。

 これまでも、プリルンが「笑顔のユニゾン♪」に合いの手を入れてくれるシーンはありました。ただ、あそこまで曲に思いを込めてプリルンが歌ってくれるのは、あの場面が初めてでした。

 この曲がプリルンの中で、「思い出を取り戻す」という奇跡を起こすほど大切になっているんだ――。そのことにも感動しました。演じている南條愛乃さんの歌声が、その思いをひしひしと感じさせて。横で聞いていると、画面もあいまって、アフレコ中に泣けてきてしまって……。

 ですが、その感動を表す語彙(ごい)力がなくて、南條さんに言えたのは「やばいです~」と(笑)。

南條愛乃、プリルンの覚悟にズキューン 「ライブ嫌い」も変える応援

南條愛乃さんの視点で第21話を語ったインタビューはこちら

 悲しいこともつらいことも、感じ取っているのが、咲良うたちゃん。そういうところにも共鳴しながら、キラッキランランに明るいスタンスは変わらずに演じています。

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本当にいたプリキュア、特別な日に

 映画にライブ……、お出かけしてプリキュアに会える機会がたくさんありますよね。

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アイドルプリキュアに変身する咲良うた(中央)と、蒼風なな(右)、紫雨こころ(左)。うたの腕には、プリルン(右)とメロロン©ABC-A・東映アニメーション

 私、京都にある東映太秦映画村が大好きなんです。幼い頃は家族でよく遊びに行きました。

 映画村の中には、歴代の仮面ライダーやスーパー戦隊がずらっと並んでいたり、プリキュアの展示があったりして。兄と一緒に仮面ライダーのショーも、プリキュアのショーも見ていました。

 鮮明に覚えているのは、プリキュアショーのこと。「ふたりはプリキュア」(2004~05年)のキュアホワイトが目の前で敵にキックをしていて、本当に戦うんだ、と驚いた記憶があります。

 あのとき、プリキュアが本当に「いる」と思いました。もちろんアニメではずっと見ているけど、目の前で見た身のこなしがすごくかっこよかった。

 回し蹴りをしても、脚がすごく高く上がっていて、「わーっ!」って。

 すごく特別な日になりますよね。こんなに時が経っても、どんなステージだったか覚えています。

 緑や赤のブロックが端に積まれていたことや、舞台が広かったことも。日常から少し離れて、夢の世界に行くような気持ちでした。

「こんにちはー!」でポロポロ

 「キミとアイドルプリキュア♪」の「おひろめデビューライブ」を見たときも、感動しました。

 キュアアイドルが「こんにちはー!」と言ったら、「こんにちはー!」とレスポンスがあって。「会話している!」と、感じたんです。たくさんのキミと、キュアアイドルが同じ世界線にいるんだと思いました。

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キュアアイドル©ABC-A・東映アニメーション

 私たちは声優として、マイクの前に立って画面を見てお芝居をしています。けれど、その向こうには受け取ってくれる、思いを返してくれるキミがいる。そのことをひしひしと感じました。

 家で台本をチェックしているときは、孤独な闘いと言いますか、自分の中でぐるぐる悩むこともありました。でもキミに向けて、と思えば悩まなくてもいいんだ、とも感じたんです。

 自分の声を通して、誰かを元気づけて、キラッキランランにできている。そんな実感がわいてきて、ライブを見ながら泣きました。「こんにちはー!」で、早くもポロポロポロと(笑)。

 楽しんでくれている子たちの姿を見ると、うれしくなりますね。

 キミなりの楽しみ方をしてほしいと、心から思います。コールをしてくれたり、踊ってくれたり、じっと眺めてくれたり……。隣の子に合わせなくていいから、自分が楽しい方法で見てほしいですね。

 うたちゃんも、キュアアイドルとして純粋にステージを楽しんでいると思います。その場を楽しむ能力がある子。ステージに出る前に緊張したとしても、パッと出てしまえばきっとやれる。天性のアイドル性があるのかな、と思って演じています。

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スクリーンが「なくなる」瞬間

 9月には、いよいよキミプリの映画が公開されますね。

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©2025 映画キミとアイドルプリキュア♪製作委員会

 なぜか私は幼い頃、プリキュアの映画には連れて行ってもらえなかったんです。

 たしかあれは「Yes!プリキュア5」(2007~08年)の映画で、入場者プレゼントに「ミラクルライト」がついていて。つけるとその先に絵が映るものだったんですね。すごくほしくて、「ほしい!行きたい!」と言いましたが、ダメでした。どうしてだったのでしょう。

 プリキュアシリーズの映画では、物語の中でライトを使う場面が出てきますよね。観客も一緒にライトを使って応援すると、傷ついたプリキュアが力を取り戻す。こんな体験を幼い頃にしていたら、すごく大きな声で「がんばれー!」と応援していただろうな。

 大人になって、「わんだふるぷりきゅあ!」(2024~25年)の映画を見ました。昼間の劇場には、プリキュアのコスチュームを着た子どもたちがたくさんいて。プリキュアを応援する場面は、みんなが声を出していて、そこで泣いてしまいました。

 この応援が無かったら、物語は止まってしまうのではないか。そう感じました。後ろの席から見ていると、応援しているキミたちも、作品の一部になっているよと、思ったんです。

 スクリーンを隔てていても、それがないように感じました。ここはプリキュアの世界とつながっていて、応援が届いていると感じたんです。映画館が映画館ではなくなって、作品の世界に入りこんでいる気持ちになりました。

 キミの応援がスクリーンを越えて、プリキュアに届く――。そういう経験は、すごく特別なものになるのではないかな、と思っています。

キミに向けて演じた

 幼い頃の記憶を思い起こすときは、本当に現実だったのかなと思うほどに、すごくキラキラしている気がするんです。

 やはり大人になると、色々な現実を知っていきます。けれど、「私は本当にスクリーンを越えたし、あの世界にいたし、プリキュアを応援した」。そんな現実を超えた体験をした記憶が、「自信」につながるのではないか、とも思うんです。

 今回の映画でも、キュアアイドルがスクリーンの前にいるキミに向かって、あることを言う場面があります。

 その場面では、ひとり一人のキミに向けて、気持ちを丁寧に伝えるつもりで話しました。「みんなに向けて」、ではないんです。劇場の席に座っている子、スクリーンの明かりに照らされた顔を想像しながら、演じました。

 これから大きくなるまでには、色々な試練もあるでしょうけど、自力で頑張ったり、人に力をもらったりして立ち直っていくと思うんです。そういうときに、純粋に何かを好きだったという思い出は、自分の背中を押してくれる力になるはず。

 松岡美里のことを思いだせなくても、いつかプリキュアのことを思いだしてくれて、それがキミの力になるなら、それは役者冥利(みょうり)に尽きることだと思います。

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