東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働の是非を問う県民投票条例案について、新潟県は8日、花角英世知事が16日の新潟県議会に条例案を提出する際に付ける意見を発表した。
知事意見は、条例案が再稼働の是非を賛成か反対の二者択一で選ぶとしていることについて「県民の多様な意見を把握できない」と課題を指摘。投票を実施する際の実務上の課題も挙げた。条例案への賛否は直接言及していないものの、県議会では「条例案に対する否定的な意見だ」との受け止めが広がっている。
条例案は3月27日、市民団体「柏崎刈羽原発再稼働の是非を県民投票で決める会」が約14万筆の署名とともに県に提出した。提出を受け、県は知事の意見を付けて県議会に提出することが地方自治法で定められている。
知事意見の全文は次の通り。
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■県民投票条例を巡る知事意見 全文
この度、東京電力ホールディングス株式会社の柏崎刈羽原子力発電所の再稼働に関する県民投票条例の制定が、約14万3千人の県民の署名により請求されたところであり、その意義を大変重く受け止めるものである。
その上で、条例案を慎重に検討した結果、以下の課題があるものと考える。
1条例案により原子力発電所の稼働の是非を判断することについて
柏崎刈羽原子力発電所の再稼働の是非については、国のエネルギー政策上の必要性をはじめ、原子力規制委員会の審査や県技術委員会によって確認されてきた施設の安全性、原子力災害発生時における避難計画の実効性、そして東京電力に対する信頼性といった課題があり、すでに多岐にわたる観点から議論されているところである。
また、再稼働の是非は、地域の経済・雇用・財政に影響があることに加え、国全体の経済・産業の発展や、近年気候変動による影響が顕在化している中にあって地球温暖化対策等にも関連する広範で複雑な問題であると考える。
条例案第10条は、県民は、投票用紙の賛成欄又は反対欄に○の記号を記載して二者択一で自らの意思を表明することとし、条例案第18条は、知事は投票の結果を尊重するとともに、国及び関係機関と真摯に協議し、柏崎刈羽原子力発電所の再稼働に関して県民の意思が忠実に反映されるよう努めなければならないとしている。
しかしながら、再稼働の是非については、上記のとおり多岐にわたる観点から議論されてきているところであり、これまで県には、県民から、単に「賛成」「反対」だけでなく「条件付きの賛否」や「県議会で議論し結論を出すべき」といった意見も寄せられているところである。
「二者択一では多様な意見を把握できない」
したがって、条例案第10条に規定する「賛成」又は「反対」の二者択一の選択肢では、県民の多様な意見を把握できないと思われる。
2条例案の執行上の課題について
県民投票を執行するに当たり、本条例案には、以下の課題がある。
条例案第15条第1項では、公務員を含め「何人」も県民投票運動等を自由に行うことができることを規定している。しかし、国家公務員法第102条、地方公務員法第36条等の規定により、公務員の政治的行為が制限されているため、県民投票運動の態様によってはこれらの法令に抵触する可能性がある。
条例案第3条では、県民投票に関する事務は知事が執行するとしているが、条例案第17条では、選挙管理委員会が開票を行うとしており、開票事務の主体が整理されていない。また、条例案第19条で引用する地方自治法第252条の17の2第1項は、「知事の権限に属する事務」を市町村が処理することとするための規定であることから、条例案第17条に規定する「選挙管理委員会」が行う開票事務を市町村に処理させることはできない。その場合、県内すべての開票事務を県選挙管理委員会だけで担うことになるが、これは実務上、極めて困難である。
その他、本条例案には、記載誤り、文言の不足等がある。