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シンポジウムに登壇したパネリストたち=2024年11月30日午後4時32分、広島市中区

 核の被害は広島、長崎のみでなく、実は全世界に広がっている――。各地の核実験やウラン採掘作業などの影響で被曝(ひばく)した「グローバル・ヒバクシャ」と連帯し、核廃絶への糸口を考えるシンポジウムが11月30日、広島市中区の広島国際会議場で開かれた。

 「グローバルに核被害をとらえ直す ―いま改めて『ノーモア・ヒバクシャ』」と題し、広島市立大学広島平和研究所と中国新聞社、長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA(レクナ))が主催。約220人が参加した。

 まず、広島平和研究所教授のロバート・ジェイコブズさんが基調講演した。米国が広島と長崎に原爆を落とした1945年以降、世界では2千回を超す核実験があり、広い範囲に飛散した放射性降下物に数百万人がさらされ、健康被害が相次いだと説明した。8割以上が米国と旧ソ連の実験で、特に米ネバダ州では900回以上が繰り返されたという。

 ジェイコブズさんは「冷戦期、多くの人がイメージしたのは原爆投下による核戦争。だが実際には放射性降下物が人体に入り込み、目に見えない静かな暴力が振るわれた」と指摘。「核『実験』と呼ぶが、実態は核『攻撃』。核兵器は存在するだけで暴力となって、生態系に悪影響を及ぼし、人に害をなす」と話した。

 その後、映画監督でテレビディレクターの伊東英朗さんが、米国本土の核実験被害者らを追って制作したドキュメンタリー映画「サイレント・フォールアウト」について報告した。

 映画では、1951年から米ネバダ州で始まった核実験による影響を追跡。すぐ近くの牧場で育った当時10代の女性が、父を含めた家族ら8人をがんで亡くしたという証言などを積み重ねた。放射性降下物は実験地のみならず全米に広がったといい、映画では、全米から子どもの乳歯を集めることで、その体に放射性の「ストロンチウム90」が蓄積された実態を明らかにした母親らの活動も取り上げている。

 伊東さんは「核爆弾の実験、製造過程で世界中が汚染された。みんながヒバクシャだ」と当事者意識を持つ重要性を指摘。さらに、「(国家が)核兵器を持つために、それぞれの国で健康と命を犠牲にした人たちがいる」と話し、「核兵器を持つか持たないかという議論以前に、こうした実態を踏まえた国民的な議論をするべきだ」と話した。

 「核政策を知りたい広島若者有権者の会」(カクワカ広島)メンバーで広島県呉市出身の瀬戸麻由さんは、オーストラリアの先住民アボリジニーの女性に出会った記憶を話した。女性の故郷では、原発用のウラン採掘に携わったために被曝した人々がいると聞き、衝撃を受けたという。

「私はそのウランで起こした電気を買っている側。広島に生まれ育って知らず知らず自分を被害者の側に置いていたけれど、実際は問題に加担している側面もあることを直視しなければいけない」と振り返った。

 RECNAの鈴木達治郎教授は、未成熟なAI技術を核兵器システムに導入する危険性を指摘。「核抑止の基盤が崩れかかっていることを認識すべきだ」と話した。

 中国新聞の森田裕美記者は同社の記者らがいち早くグローバル・ヒバクシャの問題を取材し、連載記事をまとめて出版した書籍「世界のヒバクシャ」を紹介した。その後は平和研究所の梅原季哉教授の司会でパネルディスカッションも開かれた。

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