中島京子 お茶うけに
「小さいおうち」で直木賞、「やさしい猫」で吉川英治文学賞などを受賞した小説家の中島京子さんが、日々の暮らしのなかで感じるさまざまなことをつづる連載エッセーです。
裏庭にある室外機に、つる性の植物が絡みついて故障を起こしたことがあるので、家人は、日々、まめに点検している。
そして先日、小さな丸いものを手に室内に戻ってきた。
「これ、なんだ」
と、家人は手のひらを広げた。
それは、どう見ても、梨の実であった。
わたしたちは外に出て、庭の隅にある木を見上げた。枝という枝に、テニスボールよりひとまわり小さいくらいの黄色い実が、びっしりついている。
この木は庭の東南の隅にあり、家からはほとんど見えない位置にある。
木があることは知っていたが、それが梨とは知らなかった。
我が家に梨の木があるのか! 梨ってこんなにたわわに実をつけるのか!
この家は、昭和の初め、1930年代に、わたしの曽祖父が建てた。けれども、庭木となると、それから時を経てずいぶん入れ替わっている。
母はここでわたしを産んだが、数年して中島家は引っ越したので、長いこと、ここにはわたしの祖母がひとりで住んでいた。
母92歳の記憶によれば、その祖母が、中島一家が出ていったあと、おそらく70年代初めくらいに、植えた梨の木であるという。
祖母は明治39(1906)…