600枚の田んぼが並ぶ佐賀県小城市の「江里山の棚田」が、ヒガンバナの季節を迎えた。この時期には地域の外からも多くの人が足を運ぶが、その景観も、耕作放棄地が増えれば守れない。美しい棚田を未来に残そうという願いをこめ、酒造会社と地域住民が協力し、棚田米を使った日本酒が生まれた。
小城市の天山酒造が18日に蔵出しし、全国で販売されるのは「七田 純米吟醸 江里山 棚田米」(720ミリリットル、税込み2200円)。パッケージには、江里山の棚田とヒガンバナが描かれている。
原料の米は、江里山の棚田の中でも、集落より高い標高400メートルほどの奥まった場所にある田んぼで収穫された。棚田を守ろうと集まった地元住民らのグループ「江里山二十日会」が栽培した山田錦だ。
天山酒造が「二十日会」に持ちかけ、試験栽培をへて昨年、本格的に米がつくられた。田んぼは高い場所にあるため、米の品質に影響する高温障害を受けにくい。ほどよい甘みやジューシーなうまみが広がる味わいに仕上がったという。
天山酒造があるのは、江里山のある天山山系のふもと。江里山は同社にとって「地元」だ。同社営業部の坂口輝さんは「美しい棚田の景観を未来に継承するお手伝いができれば」と語る。社員も田んぼの草刈りに参加したという。
江里山の光景を盛り込んだパッケージの図柄にも思いをこめる。「天山酒造の地元の土地を感じながら飲んでもらう1本になれば。こういう環境があることをお酒を通じて知ってもらえたら」
「二十日会」のメンバーも仕込みを手伝った。代表の江里口博さん(66)は「丹精を込めてつくった米。味わって飲んでもらいたい」。稲刈り作業中の棚田の前で、日本酒の瓶を手に、笑顔を見せた。
天山酒造では、21日に「秋の蔵開き」を開催し、棚田米を使った酒も限定販売する。江里山地区では22日、棚田米やさしみこんにゃくなどを販売する「江里山ひがん花まつり」が予定されている。(岡田将平)