テッサ・モーリス=スズキさん

 日本は台湾や朝鮮を植民地として支配したが「良いこと」もした――こんな言説をどう受け止めればいいのでしょう。大英帝国だった英国でもそういう言い方はよく聞かれますと、英国出身の歴史学者、テッサ・モーリス=スズキさん(オーストラリア国立大学名誉教授)は語ります。もし、戦後生まれの日本人にも過去の植民地支配に関する何らかの義務があるとしたら、それは何でしょう。帝国と植民地の関係を「今」考える意味とは。

英国でも語られる「大英帝国は良いことも」

 ――大日本帝国は台湾や朝鮮を植民地として支配したが良いこともした。そんな議論が根強くあります。

 「大英帝国として多くの植民地を支配した歴史を持つ英国でも、同じような話が語られ続けています。英国はインドなどを支配したが良いこともした、と」

 「史実を指摘しているだけであるかのような言い方ですが、実際には、植民地支配の持っていた暴力性や抑圧性、差別性を隠蔽(いんぺい)することにつながる語りです」

 ――「良いこと」とされているものの内実は、どうなっているのでしょう。

 「英国にせよ日本にせよ、帝国が植民地を統治するにあたって現地でインフラや教育・医療施設を整備した例は確かに見いだせます。しかし、整備したのは植民地からの収奪をより効率的に行うためであって、支配される側の人々の生活を向上させることが主な目的ではありませんでした」

 ――たとえ目的が帝国の利益のためであったとしても、現地の人々の側にも「少しは」良いことがあったはずだ、と主張する人もいるかもしれません。

 「歴史上の出来事には多くの場合、ある種の両義性があります。『悪い出来事』が『良い効果』を持った例が珍しくないのです」

歴史の両義性から考える正当性

 「たとえば第2次世界大戦と…

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