将来はストレスが少なくなると考える楽観的な人たちは、物事を深刻に先延ばしする癖が少ない。そんな研究結果を、東京大学の開(ひらき)一夫教授と大学院生の柏倉沙耶さんがまとめ、科学誌サイエンティフィック・リポーツに発表した。「深刻な先延ばし癖を減らすには、未来に希望を持つことや、その支援を受けることが大切ではないか」と指摘している。
「深刻な先延ばし」とは、課題を先送りすることでよくない結果を招くことがわかっても先延ばししてしまうこと。幸福度が下がってストレスが増え、健康を損なったり学業成績が低下したりすることが過去の研究から知られている。該当する人たちには「未来を軽視する傾向」が見られたが、なぜ軽視するかはよくわかっていなかった。
研究グループは、国内のオンライン調査に応じた20~29歳の男女296人(平均25.6歳)に対して、「過去10年」「過去1年」「過去1カ月」「過去1日」「今この瞬間」「明日」「この先1カ月」「この先1年」「この先10年」という過去から未来にわたる時間軸で、どれくらいストレスや幸せを感じるか(回想や予測も)を9段階から選んでもらった。同時に、「手遅れになるまで決断を遅らせる」「『明日やるから』と自分に言っている」など12の質問に対し1~5点で自己評価してもらい、先延ばし癖が強い人たち(上位25%)、弱い人たち(下位25%)、中間層(残り50%)にわけ、ストレスや幸せの感じ方との関連を調べた。
ストレスの感じ方は4パターンに分類され、未来に行くほどストレスが減る「下降型」が54人(18%)、未来に行くほどストレスが増える「上昇型」が90人(30%)、今が一番ストレスが低く、過去や将来に行くほどストレスが増える「V字型」が113人(38%)、逆に過去の一時点がストレスが最も高く、それ以降はストレスが減る「への字型」が39人(13%)いた。
下降型グループは、先延ばし癖が強い人たちの割合が11%と、ほかの3グループの半分以下で統計上も明確に少なく、中間層の人たちの割合が65%と多かった。ほかの3グループではそれぞれ23~29%、41~44%だった。下降型は未来に対して楽観的に考える人たちで、そういう見方が深刻な先延ばし癖を減らす可能性が示唆されたという。
一方、幸せの感じ方を同様に分類した4グループでは、先延ばしに関して統計上明確な差が出なかった。
柏倉さんは「『なんとかなるだろう』と無理やり言い聞かせて、思い込もうとする楽観性ではなくて、時間軸の中で未来に対して自然と浮かび上がった楽観性が、深刻な先延ばし癖になりにくい」と分析。
開さんは「未来に対し『なんとかなるさ』と思えるようになるのは、すぐに変われるものではないかもしれないが、小さいころからの割と長い間の人とのやりとりが、そういった未来観をつくるのに大切。例えば、両親が子どもに対し『まあ、なんとかなるよ』という希望をどうやって持たせられるかがポイントになるのではないか」と話している。
論文はこちら(https://www.nature.com/articles/s41598-024-61277-y)へ。
◇
今回の研究を発案したのは大学院博士課程の柏倉さん。きっかけは自分自身だった。
子どものころから先延ばし癖が強く、夏休みの宿題も「最後の1週間で頑張るタイプ」だったという。
中学・高校のときのテスト前…