連載・上 鉄のまちと62年 お恵閉店
朝、目が覚めると思う。
おれ、本当に店をやめんのかな……。
店を始めた62年前が昨日のようだ。「鉄のまち」は不夜城だった。
岩手県釜石市の「お恵(けい)」が25日夜を最後に店を閉じる。かつて製鉄所脇にあった呑(の)ん兵衛横丁を代表する店だ。ずっと1人で切り盛りしてきた店主は菊池悠子さん(86)。ただ、誰もが親しみを込めて「お恵さん」と呼ぶ。
横丁時代と同様のカウンター7席の店で、つまみもおでんやイカの一夜干しなどわずかしかない。客はカウンター越しのおしゃべりを楽しむ。お恵さんは豪快に笑う。
元気に見えるお恵さんも、保健所の営業許可の更新時期を前に悩んだ。決めたら常連客に次々と電話をかけた。
「口はまだ達者だけど、腰が…