カウンター内から客と会話するお恵さんと、名物のイカの一夜干し=2025年6月10日、岩手県釜石市、山浦正敬撮影

連載・上 鉄のまちと62年 お恵閉店

 朝、目が覚めると思う。

 おれ、本当に店をやめんのかな……。

 店を始めた62年前が昨日のようだ。「鉄のまち」は不夜城だった。

 岩手県釜石市の「お恵(けい)」が25日夜を最後に店を閉じる。かつて製鉄所脇にあった呑(の)ん兵衛横丁を代表する店だ。ずっと1人で切り盛りしてきた店主は菊池悠子さん(86)。ただ、誰もが親しみを込めて「お恵さん」と呼ぶ。

 横丁時代と同様のカウンター7席の店で、つまみもおでんやイカの一夜干しなどわずかしかない。客はカウンター越しのおしゃべりを楽しむ。お恵さんは豪快に笑う。

 元気に見えるお恵さんも、保健所の営業許可の更新時期を前に悩んだ。決めたら常連客に次々と電話をかけた。

 「口はまだ達者だけど、腰が…

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