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自身の研究室でホワイトボードに向かいペンを手にする望月新一・京都大教授=京都市の京大数理解析研究所、京大提供

 もっとも謎めいた数学者の一人かもしれない。超難問「ABC予想」の証明を成し遂げたという京都大学教授の望月新一さん(56)は、マスコミの取材に沈黙を保ち、その姿は謎に包まれている。個人ブログや知人らへの取材から、たどってみた。

  • アニメで解説「ABC予想 世紀の難問 – たし算とかけ算の謎に迫る」

 望月さんは1969年、東京生まれ。日本人の父と米国人の母を持ち、5歳の時、妹と家族4人で渡米した。新日鉄(現・日本製鉄)に勤める父の転勤のためで、以来18年を米国で過ごした。

 望月さんが15歳の頃、1985年に発売された日本の女性誌に、母アンさんのインタビューが残っている。

米国で空手を練習、ニュートンを定期購読

 それによると、小さい頃の望月さんは縄跳びが苦手な「ぶきっちょサン」で、米国では空手を習い、日本の科学雑誌「ニュートン」を定期購読していた。「しんちゃん」と母親から呼ばれていたという。

 高校は名門フィリップス・エクセター・アカデミーを2年で卒業し、プリンストン大に飛び入学。ここを3年で終え、19歳で大学院へ。23歳で博士号を取得後に単身日本に戻り、32歳の若さで教授になった異例の経歴を持つ。

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望月新一さんの「本音」がつづられている個人ブログ「新一の『心の一票』」

 プリンストン大時代の望月さんの指導教授で、フィールズ賞受賞者のゲルト・ファルティングス氏(70)は「とても誇り高く、自尊心の強い学生だった」。大学以来の友人、英オックスフォード大のキム・ミョンヒョン教授は「聡明(そうめい)で非常に思慮深く、仕事だけでなく、個人的なことにもとても真剣に物事を考える人だった」と語る。

 名誉や賞には無頓着らしい。研究室が隣の玉川安騎男教授は「望月さんは賞に対しては全く無欲(というか、むしろやや否定的)。基礎理論の完成に力を注いでいる」と過去に記している。

サイマジョに興奮、熱く語る「ガッキー論」

 望月さんはメディアとは距離をとり、インタビュー取材に応じたことはない。メディアの前に姿を現すことは、2013年にあった数理研設立50年を祝う講演会が最後だ。謎めいた雰囲気から、ビットコインの創設者「サトシ・ナカモト」ではないかとのうわさも立った。

 ただ、親しい人は「親切で気さく」と話す。ラテン語やギリシャ語などへの造詣(ぞうけい)も深く、メールのやりとりにはジョークやユーモアがちりばめられているという。

 デジタル機器への関心も高く…

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