記者サロンで語る馬場あき子さん=4月19日、吉本美奈子撮影

 本番3時間前。歌人の馬場あき子さん(97)の声はかすれていた。風邪が治り切らなかったという。

 47年間務めた朝日歌壇の選者退任を記念して、4月に開いた記者サロン「馬場あき子さんと振り返る 朝日歌壇の半世紀」。朝日新聞東京本社の読者ホールに東北や九州からも聴衆が詰めかけた。みな、馬場さんの話を聞きたくて駆けつけた人ばかり。だが、進行役を務める私は「これ以上、負担はかけられない。自分が多めに話さなければ」と内心決意を固めていた。

 ところが本番では一転、張りのある声で馬場さんは話し始めた。短歌を紹介する時は、朗々と読み上げた。オフラインの交流会も含めると約2時間、ユーモアを交えた潑剌(はつらつ)とした語りに会場は何度も沸いた。

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記者サロン「馬場あき子さんと振り返る 朝日歌壇の半世紀」は7月31日までオンラインで視聴可能です。応募作から選ばれた入選5作の読み解きや、戦時中に友人から教わった長唄「越後獅子」を馬場さんが口ずさむ場面などもご覧いただけます。

 退任を伝える記事で「元気なうちに」と載せてはいたが、打てば響くようなやりとりに「97歳とは思えない」と驚く声が事後のアンケートにいくつも届いた。

 壇上で驚かされた私も後日、「本番で声が出たのは、能で鍛えていたからですか」と尋ねた。19歳で喜多流宗家に入門して以来、短歌と両輪で能に打ち込み、82歳まで能舞台に立ってきたからだ。だが、予想に反して「教壇に立っていたから」と返ってきた。

 馬場さんは朝日歌壇の選者に…

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