作家の鈴木涼美さんに都知事選を振り返るエッセーを寄せてもらいました。
何かと決めかねていたせいで十九時を過ぎてから向かった投票所には、たまたま女性の有権者が多く、入口で案内してくれた職員も投票用紙を発行してくれた職員も女性だった。仕事や子育てで忙しい時間を割いて来ているせいか、誰もがきびきびと動く。婦人参政権が認められて来年で八十年。初の女性都知事が誕生して八年。有力候補のツートップを女性が占め、それを多くの多忙な女性たちが選ぶ絵は、とても現代的な光景ではあった。
開いてみれば結果は都知事選の伝統に倣って現職小池百合子氏が余裕の当選となり、対抗馬として注目されていた蓮舫氏は終盤、前安芸高田市長の石丸伸二氏に追い上げられ、得票数二位すら逃した。かつて大与党を舌鋒(ぜっぽう)鋭く追い詰め、政権交代に一役買った蓮舫氏が望んだであろうような女性二候補のせめぎ合いという構図にはならず、三十代以下の若年層の支持を思いのほか多く取り付けたのは、自身より高齢の市議や記者に対して「思ったことをはっきり言う」姿をアピールした石丸氏だった。選挙戦自体、都政と一見無関係に見えるポスター悪用や候補者乱立状況に注目がいき、都市整備などの政策で都民を巻き込む議論は起きなかった。
八年前に女性都知事誕生を歓迎した女性有権者は、別の選択肢があったとしても小池氏を選んだ。こうなると、安保や歴史問題などの認識には賛成しかねるが、日本で女性の大きなリーダーが誕生する様子を見たい、というような言い訳はもうきかない。我らは大都市の運営を女性に任せてみたい、のではなく小池さんに任せたいと意思表示してしまったのだ。すっかり権威という感じのする小池氏から女性支持者が離れなかったことは少し意外だ。
週刊誌など一部メディアは小…