慶応大学名誉教授 小此木政夫さん
朝鮮半島が揺れています。尹錫悦(ユンソンニョル)大統領が昨年12月に「非常戒厳」を出した韓国では、左右両派がともに街頭に大挙繰り出し、連日、大規模集会を開いています。北朝鮮はウクライナに侵攻したロシアに兵士を派遣、ミサイル発射も繰り返しています。根源はどこにあるのか、朝鮮半島を長く見つめてきた小此木政夫・慶応大名誉教授に話を聞きました。2回に分けて紹介します。まずは韓国の混乱から。
――ナショナリズムの分裂とはどういうことですか。
「一般論として、近代ナショナリズムを一つのイデオロギーやリーダーシップの下に統合するのは、容易なことではありません。多くの場合、それは革命、内戦、独立戦争などを通じて達成されました。フランス革命、米国の独立戦争などがその典型例です。日本も戊辰戦争と明治維新を伴いました」
統一国家実現できなかった三つの流れ
――韓国の場合は?
「朝鮮半島全体の近代ナショナリズムを見てみましょう。それは①西洋の受容によって富国強兵を図ろうとする開化思想②1894年の農民蜂起に重要な役割を演じた宗教思想である東学③朝鮮王朝の朱子学を守り、それ以外を退けるという衛正斥邪(えいせいせきじゃ)思想、の三つに分類されます」
「朝鮮にも内戦を通じたナショナリズム統合の機会がなかったわけではありません。でも、1894年の農民蜂起はかえって中国や日本の干渉を招き、日清戦争の導火線になってしまいました」
「結局、朝鮮の三つのナショナリズムは近代的な統一国家をもたらすことがなかった。日本による韓国併合以後、それらは異なるイデオロギーとリーダーシップの下で、地理的にも乖離(かいり)して、海外で展開された朝鮮独立運動に引き継がれました」
――三つはその後、どういう経緯をたどるのですか。
「植民地支配からの解放後…