現場へ! 能登の文化財はいま(2)
黒い板壁、黒い瓦屋根。伝統家屋が細い道に連なる。
どこか懐かしい。それでいて日本中のどこにもない町並みが、海風が吹き抜ける能登半島の海岸沿いにある。
北前船船主が住んだ輪島・黒島地区
石川県輪島市の黒島地区。2009年、町並みの文化財である国の重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)に選定された。江戸後期から明治中期にかけて、日本海交易を担った北前船で財を成した船主らが住んだ。
そんな集落を昨年の元日、地震が直撃した。約600件の建物のうち、91件が全壊。4割の建物が「半壊」以上の被害を受けた(昨年4月時点)。
記者が昨年12月に訪れた時は、壊れたままの建物が多かった。今年5月に再訪すると、歯が抜けたように更地が増えていた。修理が進まない一方で、公費解体の跡が目立つようになった。
東京から移住して宿泊業を営む黒澤卓央さんと恵三子さん夫妻に会った。
海外のインフラ事業に長く携わり、現地の人と会話する中で「本物の日本」を意識するようになったそうだ。偶然、地域おこし協力隊の募集を知り、黒島へ。「静謐(せいひつ)な空気感」にひかれた。コロナ下に開業し、軌道に乗りかけた矢先の地震だった。
被災した住民はみな自分の生活で精いっぱいだ。そんな中、黒島らしい復興をめざし、住民有志でつくる「黒島みらい会議」を昨年4月に発足させ、事務局となった。
公費解体、思いとどまった住民も
取り組みの一つは住宅の再建…