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写真・図版
西崎文子さん=2015年撮影

 アメリカ政治外交史が専門の歴史学者で、東京大名誉教授、成蹊大名誉教授の西崎文子(にしざき・ふみこ)さんが8月25日、がんで死去した。66歳だった。夫は成蹊大名誉教授の加藤節さん。

 宮城県生まれ。東京大、一橋大を経て、米イエール大大学院博士課程修了。主な著書に「アメリカ外交史」「アメリカ外交の歴史的文脈」などがある。建国期の思想やモンロー・ドクトリンに象徴されるアメリカ外交の「理念」と、ベトナム戦争といった「現実」とを対立的に捉えずに、理念が現実を変え、現実が理念に影響を与えると見て、アメリカ外交の本質に迫った。「歴史学の真髄(しんずい)は、探究を通じて理念を鍛え、そこから未来を見通すことにある」とし、パワー・ポリティクス中心に論じられることの多い政治・外交史を、異なる視点を含めて考察した。

 1982年からは日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)の通訳として、ニューヨークでの国連軍縮総会に合わせた請願・証言活動や、バチカンでのローマ教皇ヨハネ・パウロ2世への謁見(えっけん)に同行した。10年ほど通訳をつとめた後も、核廃絶に関心を寄せ続けた。東京大大学院の紀要で2020年に、「『裏切ってはならない人がいる』とか、『世の中には決して許されないことがある』という感覚が備わったのは、被爆者やその支援者との出会いによってである」と書いている。

 TBS系のテレビ「サンデーモーニング」に出演し、コメンテーターとしても活躍した。

 2018年から20年まで本紙書評委員をつとめた。

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