中国地方最高峰の大山(1729メートル)。その北側中腹に「香取(かとり)村」と呼ばれる酪農地帯が広がる。
戦前に香川県から満州(現中国東北部)に開拓団として渡り、敗戦後、鳥取県に2度目の入植をした人たちが森を切り開いて築いた。「香取」の名は、香川県と鳥取県の文字に由来する。
大林光雄さん(95)は、この地で暮らす「最後の開拓1世」と言われる。高松市で勤務する記者が讃岐うどんを手土産に訪ねると、「最近は自分で作らなくなった」と相好を崩した。
満州への農業移民、引き揚げ、異郷での生活再建と波乱に満ちた人生を歩んだ大林さんが語ったのは、人間らしい振る舞いができなくなるほど極限まで追い込まれた経験だ。
「百姓だから変わらない」軽い気持ちで満州へ
大林さんは、昭和恐慌さなか…