栃木県那須町で2017年3月、登山講習中に起きた雪崩事故で、県立大田原高校山岳部2年だった長男の浅井譲(ゆずる)さん(当時17)を亡くした母道子さん(58)は今、各地の山を登っている。一緒に登るのは同校の現役部員たち。譲さんの足跡をたどる登山は、この春で15回を超えた。
尾根を進む高校生の背中を木々の緑が包む――。道子さんのスマートフォンには大切な写真が何枚も収められている。
登山を始めたのは事故4年後の21年7月。譲さんが生前、仲間と日光白根山(2578メートル)に登った動画を見たのがきっかけだった。「譲が駆け上がった山をこの目で見たい」。事故後、OBらが同行するようになった山岳部の活動に、思い切って参加することにした。
高校の山岳部は、主に競技大会に向けて訓練する。ただ、同校の目的は競うことでも速く登ることでもない。気温、湿度、風速を記録するため、何度も立ち止まる。理科が専門で顧問の高梨和幸教諭(51)から、地形や山の植生について説明を受けることもある。現役部員と一緒に登れるか不安もあったが、打ち解けた。
山の安全願い、現役山岳部員と一緒に……
22年夏、登山中に1年生部員が腹痛を訴えた。あるOBは「私が連れて下りる」と提案したが、高梨教諭は「パーティーは分断しない。全員で下りる」と言った。
2カ月後に同じメンバー全員…