100年をたどる旅~未来のための近現代史~⑦戦間期と今 類似と相違
約百年前、第1次世界大戦の終息で平和と国際秩序を取り戻しつつあったかに見えた世界は、再び泥沼の第2次大戦に突入していった。今の国際情勢は両大戦に挟まれた「戦間期」とどこが似ていて、どこが異なるのか。欧州政治に詳しい遠藤乾・東京大学教授に聞いた。
――今の情勢と「戦間期」を比較して、類似点は何でしょうか。
「過去の歴史とのアナロジー(類似性)というのは、当てはまるものもあれば、単純に当てはまらないものもある。その前提で話をすれば、戦間期との類似点は主に三つある。一つは、ロシアのウクライナへの軍事侵攻に見られるように、現状変更を求める勢力が、実際に武力を使って実力行使を始めていることだ」
「二つ目は、民主主義国家が自滅・自壊して、『自由』から逃走していくことだ。戦間期にも、ドイツはワイマール憲法、日本は大正デモクラシー、イタリアにも19世紀以来の自由主義の伝統があった。そのなかで、それぞれナチズム、軍国主義、ファシズムに走っていった。『民主主義の春』のような時期があったが、それを自ら壊していく過程が、現在の情勢と似ている」
「三つ目は、国際社会のブロック化だ。それまで自由貿易を促進し、世界が見上げる一大帝国だった英国が、1929年の世界恐慌を機にブロック化に転換していく。英国連邦の自治領諸国を招集した1932年のオタワ連邦会議で、仲間内で優遇しあい、囲い込む行動に出た。それに米国が対抗しようとし、フランスも独自の行動をとるなど、ブロック化が帝国の中枢を震源地にして広がっていった。大恐慌後4年間で貿易は7割減り、それが失業・社会不安を招き、権威主義化を生んでいった。囲い込んで関税を引き上げるというのは、まさに米国のトランプ前政権が実施した政策だ」
――なぜ、ブロック化が進むと、紛争を誘発することになるのでしょうか。
「本来は国と国とは相互依存の関係にあるのに、人為的に高い壁を設けて遮断するわけだから、当然いさかいが起きる。壁を造れば、そこに失業者が生まれ、社会不安を招き、ポピュリズムのマグマを生む。それは戦間期との類似性との関連で無視できない現象だ」
戦間期との違いにも冷静な目を
――逆に、戦間期といまの相違点は何でしょうか。
「世界秩序を牽引(けんいん…